特撮好きな女の子は「男の子らしい」わけじゃない
特撮が好きだと本当に女の子らしく育たないのだろうか。
幼い頃から特撮ヒーロー「ウルトラマン」シリーズに出てくる怪獣が大好きでありながら、女の子が憧れる職業・アイドルになった少女がいる。ハロー!プロジェクト所属の「アンジュルム」メンバー・相川茉穂だ。ブログやラジオなどでウルトラ怪獣好きを公言していたことが認められ、ムック『「怪獣酒場」大図鑑』(TJMOOK)への対談掲載や雑誌『宇宙船』(ホビージャパンMOOK)での連載という仕事にも繋がっている、本格的な怪獣好きだ。
怪獣好きの相川の印象について「男の子っぽい」と答えるファンはほとんどいないだろう。お母さんが作るご飯や飼っている猫が大好きで、季節の行事や食べ物を大切にする。日常を切り取る写真のセンスも良い、繊細で優しい女の子だ。グループの先輩の中西香菜、後輩の上國料萌衣とともに出演したラジオでは、先輩後輩思いの一面も聞くことができた。
相川「加入した後に中西香菜さんがいてくれて本当に良かったなって思うんですけど」「レッスン終わったのに、鏡の前ですごく丁寧に教えてくれて」「それがあったおかげで今自信を持って踊れる」
上國料「相川さんも、私が加入してすぐ手伝ってくれましたよね」
相川「してないしてない(笑)」
上國料「記憶に残ってますよー!」
相川「でも、そういうのも、中西さんが教えてくれたことをかみこちゃん(上國料)にも教えてあげることができたから」
(ラジオ「アンジュルムステーション1422」第195回 2016年10月19日放送より)
困っている自分に先輩が優しくしてくれたことを今度は後輩にしてあげようという優しさ。学校のクラスや部活、職場などで発揮されても心温まるであろうこの思いやりは男性女性関係ない。「女の子らしく育ってほしい」と願う親が忌避するものでもないだろう。相川のこの優しさは怪獣にも向けられている。
「作品について何も知らなかった頃は、単純に『ウルトラマンが正義で、怪獣が悪いことをするから倒される』というイメージだったんです。でも、実際に観るとちゃんと理由があって、人間が何か悪いことをするから怪獣たちがビックリしたり怒って地球へやって来るのが分かったんです。」
(@DIMEコラム「怪獣好きアイドル・相川茉穂がウルトラ怪獣たちから学んだ教訓とは?」より)
例えば、元は地球人だった怪獣の境遇を切なく思う感受性や、怪獣のフィギュアを置くふさわしい場所を探してあげる気遣い。「男の子らしい」「女の子らしい」は関係なく、ただただ思いやりがある優しい子に育ったということがわかる。
『トクサツガガガ』の叶も、いつまでも思いやりのない女性でいるわけではない。同じ特撮ファンの吉田さんや女児アニメ好きの任侠さん、アイドルオタクの北代さんなど、仲間が増えて自分の好きなものについて話せる場が増えていく。自分を偽らず仲間と積極的に交流するようになるにつれて、他人を傷つけたことに気づけるようになったり、自然と人のために動くことができるようになったりする。成長していく叶の考え方のベースにあるのは、やはり特撮ヒーロー番組の「優しい大人になりなさい」というメッセージだ。
「男の子/女の子らしい」という言葉はつい簡単に口にしてしまうが、その中身について掘り下げて考えて言うことは少ないかもしれない。「女の子らしく」と言っても、隠れている本当の願いは「優しい子に」「人を思いやれる子に」「健康で明るい子に」育ってほしいという中身だったりする。
仮面ライダーの原作者・石ノ森章太郎のファンを父に持つ私は、こどもの頃から仮面ライダーや戦隊ヒーローを見て育った。大人になった今でもヒーローが大好きだ。どんな大人に育ってほしかったか父に聞いたときには「明るくて人に優しく、どんなことでも自分でできる子になってほしい」と言われた。「女の子らしく」と言われるよりもずっとわかりやすく、父の思いが伝わる。半分くらいは叶えてあげられているといいなと思う。
仮面ライダーの変身ベルトを買ってもらえない女の子の動画を見て学べることがあるとしたら、それは言葉を雑に使っていないかという自戒だ。「高価だから買えません」「買ってあげたくありません」という本当の気持ちを「男の子のおもちゃだからダメ」と言っていないか。「優しくて愛情深い子になってほしい」という願いを「女の子らしく育って」と言い換えていないか。最近の仮面ライダーはわかりにくいストーリーのものもあるが、人を愛して守るという明快なメッセージは変わらない。戦隊ヒーローの、人に優しく仲間を大切にというメッセージも同じだ。大人になった今だからこそ、特撮ヒーローを見習って自分の気持ちをはっきりと伝えていきたい。
(むらたえりか)
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