パク・チャヌク映画『お嬢さん』はフェミニズムそのものだと思う。多くを語りたくても語らせてくれない、もどかしい映画評。

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3月3日(金)より、TOHOシネマズシャンテ他ロードショー ⓒ 2016 CJ E&M CORPORATION, MOHO FILM, YONG FILM ALL RIGHTS RESERVED

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3月3日ロードショーの『お嬢さん』という映画の魅力を伝えるのは本当に難しいものです。なぜなら、ミステリーや謎解きの部分が大きいため、ネタバレを丁寧に避けなければいけないからです。

この物語の舞台は、1939年、日本統治時代の朝鮮半島です。詐欺一味に育てられた孤児の少女スッキ(キム・テリ)は、グループの詐欺師(ハ・ジョンウ)から、華族の上月(チョ・ジヌン)の暮らす豪邸へ侍女として潜入するよう命じられます。「藤原伯爵」の名を騙る詐欺師は、上月家の令嬢・秀子(キム・ミニ)と結婚し財産を奪う計画を企てており、その足がかりとしてスッキを送り込んだのです。

報酬を目当てに詐欺師の計画に加担したスッキは珠子という日本名で上月家で働くようになります。しかし純情で繊細な秀子の世話をしていくうちに、秀子への情が徐々に大きくなっていきます。秀子もまた愚直に世話をしてくれる珠子に対して心を開くようになるのですが……ここからの急展開は『お嬢さん』の最大の魅力のひとつで、書きたいことがたくさんあるのですが、映画の性質上ネタバレを書くわけにはいきません。この先は、極力ネタバレを避けながら、それでもこの映画の魅力を少しでも伝えたいと思いながら書いていきます。

エンターテインメント性も作家性も犠牲になっていない

まず『お嬢さん』が素晴らしいのは、公式ページに「幕が上がったら最後、あなたはもう、極限の騙し合いから逃げられない――」「パク・チャヌクが仕掛ける、大胆で過激な罠」と書かれているように、優れたミステリー作品であるという点だけでなく、湿度の高い官能的なビジュアルと復讐モノを得意にしてきたパク・チャヌク監督ならではのストーリーという、見事な作家性が感じられるところにあります。

また韓国映画らしいストーリーの盛り方とでもいいましょうか、最後にこれでもかと裏切りを繰り返すサービス精神までが堪能できる文句なしの作品です。エンターテインメント性を強調するためにストーリーを盛ることはよくありますが、エンターテインメント性を強調すると、わかりやすく単調なストーリーになってしまい、監督や脚本家ならではの作家性が犠牲にされてしまうと思われがちです。しかしパク・チャヌクに限らず、韓国映画は、優れたエンターテイメント性を持ちながら、作家性もしっかりと残されている作品が数多くあります。『お嬢さん』もまたそうした作品のひとつといえます。

ひとつ注意をしておくとしたら、145分あるこの作品ですが、始まって一時間は話についていくのに精いっぱいかもしれないけれど、なんとか乗り切ってくださいということです。そこを乗り切れば、誰もが一気に物語にのめりこむことになるはずです。こう感じたのは、私だけかと思ったら、公式サイトにも「物語の幕開けから60分、我々は予想だにしなかった展開に目を見張ることとなる」と書いてありました。転換点となるシーンを見ると、思わず「おお!」「わー」と、心の中で声をあげてしまうかもしれません。

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