連載

90年代生まれナチュラル女子の感性を育んだ『グッドモーニング・コール』のほどよくオシャレな理想郷/高須賀由枝

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奇抜じゃないオシャレを提唱

その魅力を語るのに忘れてはならないのが、ナチュラルかつおしゃれ、という少女マンガで両立困難な要素をばっちり成立させてみせたところだろう。登場するファッション、ヘアメイク、インテリア……それはそれはもう、いちいちシンプルなのに洗練されていて、その当時の女子の憧れが詰まっていたと私は記憶している。

90年代『りぼん』で“おしゃれ”な漫画といえば、代表格は矢沢あいであろう。デザイナーやクリエイターを目指す高校生たちを描いた『ご近所物語』では、主人公・実果子をはじめとする登場人物たちはみんなサブカル色が濃く、それぞれの個性を存分に活かしたファッションに身を包んでいて、当時小学生だった私はおおいに魅了され憧れを抱いた。とはいえ、いくら憧れても、小学生が真似したり参考にしたりするにはハードルが高かった……。青文字系ファッション雑誌にだって載っていないような斬新なアイテムたち、こういうの一体どこに売っているんだろう、ネットショッピングはまだ普及していなかったし、その入手ルートすらわからない……(いや、漫画だからね)。

その点でいえば『グッドモーニング・コール』の“おしゃれ”は、ファッション雑誌でいう青文字系と赤文字系の中間に位置するような、ナチュラル、ちょいフェミニン、カジュアルな系統で、集英社「non-no(ノンノ)」とか主婦の友社「mina(ミーナ)」あたりを彷彿させる。実際に作中、菜緒が「non-no」を読んでいるシーンが登場する(文庫版4巻)。地方に住んでいても、小学生であっても、買い物に行けば似たようなアイテムは目にするし、手が届かないほどじゃなく身に着けることに対する抵抗もない『グッドモーニング・コール』の自然体で普通のおしゃれは、それまでのほかの『りぼん』作品にはない魅力だった。菜緒も、上原の初恋で義姉のゆりりんも、菜緒の親友まりなも、ショップ店員さんも、みーんなナチュラル系の似たり寄ったりな服装で、ドギツイ格好を好む個性派キャラはいない(だからキャラの見分けがつかなかったりもする)。1人ぐらい原宿系とかギャル系のキャラがいたっていいのかもしれないが、『グッドモーニング・コール』のナチュラルおしゃれな世界を作るにはやっぱり統一しておいたほうがベターとも思う。

ファッションに限らず、『グッドモーニング・コール』に登場するキャラたちはみんな“普通の人”である。菜緒と上原の2人暮らしという設定を除けば、『グッドモーニング・コール』は至って普通の世界観だ。ヒロインの菜緒が平均的な、というかイメージしやすい“女子”として描かれているし(甘いものすき・難しい映画ワカラナイ・料理はわりと得意・自己中心的でなく優しい)、上原だって超イケメン男子で女子大生からも注目を浴びている設定だがモデルや俳優をしているような“有名人”じゃない。上原のバイト先はコンビニやレンタルショップで、菜緒のバイト先はかくかくしかじかあってラーメン屋。通っている学校も、察するに中・高ともに公立の普通の学校だし(大規模校なので私立の可能性もあるが)、制服は奇抜じゃないけどまあまあかわいいブレザー。マンションのインテリアとか食器はおしゃれ、菜緒が休日に友人と入るカフェもかわいい(中・高生の身でありながら、チェーン系のファミレスやファーストフードに入る描写はほとんどない。ただし『牛乳プリン』は度々登場しており、コンビニ利用の描写もどことなくおしゃれなのだ)。ちなみに、ゆりりんは超美人で超おしゃれ、キス魔だけど気取ったところがなく、女子小学生の憧れるタイプで、地元の情報誌を作るわりとおしゃれな仕事には就いているけど、女優とかモデルではなく、都会の真ん中でクリエイティブな仕事をしているってほどじゃない身近さがある。舞台設定も、東京ではなくどこかの地方都市である模様だ。この<東京じゃない>感が、独特のゆるい雰囲気づくりに一役買っていることは間違いない。

普通の中学生(途中で高校生)なのに、(行き過ぎていない)おしゃれな暮らしをしていて、親という邪魔な大人はおらず、代わりに理解あるゆるい大人(ゆりりん、大家のばーちゃん、コンビニの店長、ラーメン屋のおやっさんなど)はいる。なんだかんだで菜緒と上原はお互い相手一筋で相思相愛、邪魔者が付け入る隙がありそうでない。つまりここは、女子児童の妄想する理想郷なのではないか。いや、これまで連載でたびたび触れてきたけれど、90年代『りぼん』のヒット漫画の多くが、ジャンルの少しずつ異なる“理想郷”を描いているといえるだろう。

物語終盤、諸事情から2人暮らしは解消となり、それぞれ部屋を借りることになったものの、大家のばーちゃんらの計らいで今度はマンションのお隣同士で住むことに……! 新生活を予感させるところで、『グッドモーニング・コール』は終了。けれどこれで終わりじゃなかった。06年、続編となる『グッドモーニング・キス』が集英社「Cookie BOX」に掲載され、さらに09年には「Cookie」本誌にて本格的に連載がはじまり現在も物語は進行中。すでにコミックス15巻まで刊行され『グッドモーニング・コール』を凌ぐ長期連載となっている。結婚を意識し始めた菜緒と上原の行く先が気になる方は、必読。

90年代「りぼん」読者だった君たちと私

▼ドS男子の域を超えた「悪魔」と、完璧超人に“見えた”ヒロインの依存と自立『こどものおもちゃ』
https://wezz-y.com/archives/34212
▼両親が離婚して「本当に好きな人」と再婚…大人の恋愛を描いた『ママレード・ボーイ』
https://wezz-y.com/archives/35530
▼ツリマユ・たらこ唇・いじめられっ子のヒロインが幅広い女子の共感を呼んだ普遍的作品/『ご近所物語』
https://wezz-y.com/archives/36909
▼女子の鮮烈な欲望まみれだった少女漫画とレズビアン偏見の罪/椎名あゆみ『あなたとスキャンダル』
https://wezz-y.com/archives/38092
▼『りぼん』の優等生・水沢めぐみがスポ根バレエ漫画で教えたこと/『トウ・シューズ』
https://wezz-y.com/archives/38968
▼全くブレない自己信頼感こそが、渋谷ギャルのカリスマたるゆえん/藤井みほな『GALS!』
https://wezz-y.com/archives/40992

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