
アカデミー賞公式サイトより
今年も話題の多かったアカデミー賞授賞式。最大の驚きは最優秀作品賞の発表が誤って行われるという、まさかの事態が起きたことだった。いったん『ラ・ラ・ランド』と発表され、プロデューサーが受賞スピーチをした後に、実は『ムーンライト』(日本公開2017年4月予定)だったと訂正された。会場も世界中でテレビを観ていた視聴者も事態が呑み込めず、ひたすら「???」状態となった。
現在のところの釈明は、すべてのカテゴリーの封筒は2通ずつ用意されており、誤って最優秀女優賞エマ・ストーンの名が記されたものがプレゼンターのベテラン俳優に手渡されたというもの。プレゼンターは中のカードを見て不審に思いながらも「エマ・ストーン→ラ・ラ・ランド」と解釈して発表したそうだ。
今年のアカデミー賞は当初からアンチ・トランプ色が強くなると言われており、「誤発表はそれに対する嫌がらせ」説まで飛び出しているが、真相は今後、解明されることと思われる。
日本では、この最優秀作品賞の誤発表ばかりが注目されているようだが、多くの社会的、政治的エピソードが随所に見られた授賞式だった。以下、特に印象に残ったシーンを取り上げてみる。
解消されたホワイト・ウォッシュ
昨年のアカデミー賞は最優秀主演女優/男優賞、助演女優/男優賞の候補者計20人が全員白人であり、最優秀作品賞候補もすべて白人俳優の主演作だった。そのため、非常に偏った“ホワイト・ウォッシュ”(白人ばかり)であると強く批判され、アカデミー側は候補作や候補者の選定方法を改善すると約束させられる事態となった(ホワイト・ウォッシュについては「白人モデルのゲイシャ写真が炎上した本当の理由〜『文化の盗用』と『ホワイト・ウォッシュ』」を参照)。
その甲斐もあってか、今年はインド系英国人のデブ・パテルを含む7人のマイノリティ俳優がノミネートされ、助演女優賞はヴァイオラ・デイヴィス、助演男優賞はマハーシャラ・アリと共に実力派の黒人俳優が受賞した。アリは43歳、デイヴィスは51歳であり、俳優としての真価と年齢は関係のないことも証明された。加えてアリはアカデミー史上、初のムスリム俳優受賞者ともなった。
最優秀作品賞候補も9作中4作がマイノリティ主演作であり、オスカーはゲイの黒人男性の人生を少年期から成人期にかけて描いた『ムーンライト』が射止めた。これまでのアカデミー賞では考えられない結果であった。
俳優のルーツにこだわった『モアナと伝説の海』
最優秀主演女優賞は予想どおり、『ラ・ラ・ランド』のエマ・ストーンが勝ち取った。ストーンは満面の笑顔で、俳優として最高峰の賞を受賞しながらも他の候補者への賛辞を延べ、「これからも成長して、学ぶこと、やるべきことがたくさんあります」と謙虚で誠実な受賞スピーチを行った。
前回のコラム「白人モデルのゲイシャ写真が炎上した本当の理由~『文化の盗用』と『ホワイト・ウォッシュ』」に書いたように、ストーンは2015年の主演作『アロハ』でアジア系+ハワイアンの役を演じて“文化の盗用”と批判された苦い経験を持つ。
今年はハワイアンのシンガー、アウリィ・クラヴァーリョがステージでディズニーの長編アニメ『モアナと伝説の海』(日本公開2017年3月10日)の主題歌を歌い、その歌唱力とチャーミングさを披露した。
ディズニーは南太平洋ポリネシアの海と島を舞台にした同作の主人公モアナの声優として、弱冠16歳のクラヴァーリョを抜擢した。クラヴァーリョはハワイ出身でネイティヴ・ハワイアン、中国、アイルランド、ポルトガル、プエルトリコの血を引く。もう一人の主役マウイの声優は元レスラーのザ・ロックこと人気俳優のドウェイン・ジョンソン。ジョンソンはサモア系の母とカナダ黒人の父との間に米国で生まれ、ハワイ、ニュージーランド、米国本土で育っている。
南太平洋にルーツを持つ俳優の数は多くはないはずだが、探せば才能のある者が見つかることを『モアナと伝説の海』でディズニーは証明したのだった。