苛烈なトランプ批判に沸いた第89回アカデミー賞授賞式 ハリウッドが示した多様性のあり方と政治的メッセージ

文=堂本かおる
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俳優個人と、役者としての評価

最優秀主演男優賞は『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(日本公開2017年5月予定)のケイシー・アフレックが受賞した。プレゼンターは昨年、最優秀主演女優賞を獲得したブリー・ラーソンだったが、ラーソンはアフレックにトロフィーを手渡した後、普通なら行うはずのハグも拍手も行わなかった。

アフレックは、2010年に発表した監督・脚本・プロデュースを手掛けた作品 『容疑者、ホアキン・フェニックス』の2名の女性制作スタッフからセクシャル・ハラスメントで訴えられている。最終的には示談となり、アフレックはその後も俳優としての活動を続け、今回の受賞に至ったのだが、最優秀主演男優賞にノミネートされた時点で主に女性たちから「ノミネートにふさわしくない」という声が上がり、多くのメディアも過去の事件を取り上げていた。

プレゼンターのラーソンは昨年、男に誘拐されて小部屋に7年間閉じ込められ、レイプ・妊娠出産させられた女性を演じた『ルーム』によって最優秀主演女優賞を得ている。俳優は映画に出演する際、ひとつの役を何週間、時には何カ月も演じ続け、その役が抱える精神性、背後にある社会問題に深く思いを巡らせることになる。ラーソンが昨年の受賞者の義務としてプレゼンターを務めはしても、アフレックを祝福しなかった理由である。この点はアカデミー賞側に配慮があって然るべきだったのかもしれない。

ちなみに昨年公開された『The Birth of a Nation』という作品がある。評価が非常に高く、当初は今年のアカデミー賞有力候補とされたが、主演・監督・共同脚本・プロデュースを手掛けたネイト・パーカーが大学生時代の1999年に起こしたレイプ事件が暴露され、大きく取り上げられた。当時の裁判では無実となったものの、後に被害者の女性が自殺。この件によって同作は賞レースから完全に外されてしまった。アフレックの件と併せ、俳優個人の行動と、俳優または作品としての質の関係を考えさせられるものであった。

入国を禁じられたムスリム・ビデオグラファー

最優秀外国語映画賞はイランの監督アスガー・ファルハディの『The Salesman』が獲得したが、ファルハディはトランプ政権の“ムスリム7カ国民の米国入国禁止令”に異議を唱え、授賞式をボイコットした。

一方、最優秀短編ドキュメンタリー賞を受賞したネットフリックスの『The White Helmets』 の制作メンバーは“ムスリム7カ国民の米国入国禁止令”により、会場入りを果たせなかった。

『The White Helmets』は今、世界で最も危険な国のひとつであるシリアで空爆による犠牲者救済ボランティア活動を行うホワイト・ヘルメッツと呼ばれるグループを追ったものだ。空爆の最中、自身に降り掛かる危険をものともせず撮影を担当した21歳のシリア人ヴィデオグラファー、カリド・カティーブは渡米直前になって出国できないことが判明したのだった。

『13th』が最優秀ドキュメンタリー作品賞にノミネートされていた米国人監督のエイヴァ・デュヴァーネイは、ドレスによってアンチ・ムスリムへのアンチを表した。デュヴァーネイが着た豪華なシルヴァーグレイのドレスはサウジアラビア出身、レバノンを拠点に活動するデザイナー、モハメッド・アシによるものだった。

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