次の3つの図は、同じく賃金構造基本統計調査の2016年度のデータから作成したものです。
まず、短時間労働者(パート・非常勤など)が多い職業ベスト10を男女に分けています。黄色は男性と女性の両方が多くついている職業であり、「ジェンダー化されていない」職業ともいえるでしょう。
次の図は、上記職種を賃金順に並べ変えたものです。
医師・大学講師は男性労働者数の上位に入っている職種ですが、いずれも女性労働者が多い職種ではありません。医師、大学講師に次いで賃金が高いのは看護師、塾講師ですが、いずれも同じ職種の男女で300円近い賃金格差がみられます。さらに特筆すべきは、男女ともに労働者数が多く「ジェンダー化されていない」職業でも男性の方が賃金が高いことです。
例外は「娯楽接客員」で、女性が30円ほど高い賃金を得ていますが、この職種には風俗やキャバクラ接客なども含まれていると推測されるので、彼女たちの提供している感情労働、肉体労働が30円の差に値するものなのか、議論の余地があります。また、警備員についても女性の方が10円ほど高い賃金を得ています。男性が多い職種において、男性が入れないトイレや更衣室などの警備もできるという強みが賃金に反映しているためと考えられます。つまり、「女性でなければできない」「男性ばかりだが女性が必要」な職種であれば、女性労働者の賃金が上がるのです。
そもそも、非正規労働力の多くが女性であり、この表でも女性が倍近い数働いている職種がたくさんあります。特に、賃金が低い職業ほど女性がより多く働いているのは、女性労働者の多くが不当に安い賃金でも文句も言わない主婦労働力であり、より安くより多く仕事をこなす「逆張りオークション」状態で働いているからです。女性が多い職種にある男性には「男性にしかできない仕事」というプレミアが賃金に反映されていると考えられます。しかし、男性が多い職種に就く女性の賃金に「女性プレミア」が反映されることはまれです。そもそも「女性でなければできない」とみなされている仕事は多くはなく、ほとんどの場合「女でもできる仕事」「女くらいしかやらない仕事」とみなされ、そうした職種には不当な低賃金で文句も言わず働く主婦労働力が供給され続けているのです。
こうした状況を考えると、女性は労働力としての期待値がそもそも低く、労働力の主力とみなされていない状況が見えてきます。正規でも非正規でも、同じ職業についていても、女性は労働力の主力とみなされている男性の補助的な仕事に回されます。しかもそうした補助的な仕事を主とするパート・アルバイトや非正規でも、女性は男性よりも安い賃金で働いているのです。
こうした状況を改善するために、女性に対する高等教育の効果が協調されることもありますが、日本の場合、教育にどこまで男女の社会経済的格差を縮める効果があるのか疑問です。