
『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』(太田出版)
暴力を受けた沖縄の女性たちが、自分の居場所を見つけるまでの過程を描いた『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』(太田出版)が上梓された。著者は、教育学者である上間陽子さん。2011年から沖縄で夜の街で働く女性たちの調査を続けている。2017年2月、太田出版の会議室で上間陽子さんにインタビューをおこなった。小柄で、声がやわらかい。それが上間さんの第一印象だ。
※本記事には性暴力に関する記述があります。
「もうこんなところに置いておきたくない」
上間さんは沖縄県の、米軍基地のフェンスに囲まれた、大きな繁華街のある街で育った。「タバコとシンナーの匂いがする」地元に嫌気がさし、中学3年生で猛勉強をして、第一志望の高校に合格。15歳で地元を離れた。その後、教育学者を志し、東京の大学院へ進学したのち、東京に就職した。そして十数年前に大学教員の仕事を得て、生まれ故郷の沖縄に帰ってきた。
2010年、泥酔状態の女子中学生が公園で年上の男性たちに集団レイプされる事件が沖縄であった。女子中学生と犯人に面識はなかったが、犯人たちは、集団レイプ目的で彼女を泥酔させる。その後、彼女は自ら命を絶つ。しかし、犯人たちはお酒を飲んでいたため準強姦罪にしか問われなかった。
当時上間さんは、教職課程の学生を教えながら、暴力の被害者である未成年の子どもたちに関する相談を受けていた。地元の男性たちがよく利用するネットの掲示板には「彼女は濡れていたから合意」といった書き込みがあり、同調する意見も少なくなかったという。学校関係者の側からも「お酒を飲んでいる中学生が悪いのでは」と厳しい声があがっていた。
「お酒を飲んだのが悪かったとしても、レイプをしていいわけじゃない。それに、中学生がお酒を飲まずにはいられない、危険な場所にいるのには理由があるはず。もうこんなところに置いておきたくない」
暴力の被害者になってしまう子どもたちの生活について知りたいと、上間さんは沖縄の女性たちの調査をはじめた。
2016年、うるま市で20歳の女性の遺体が発見され、元海兵隊の男性が死体遺棄、殺人および強姦致死の疑いで逮捕された。「棒で殴った上で意識を失わせ、スーツケースに入れてホテルに連れ込み暴行しようとした」「(事件が起きたあの場所に)あの時居合わせた彼女が悪かった」と男は話した。
「うるまの事件があったあとに、本を書くと決めたんです。自分を落ち着かせるような意味もありました。今まで調査で知り得た暴力のケースは、書かなかった。露悪的に書くことをセーブするべきだと考えてきた。でも、沖縄の女の子たちを扱っていて、暴力や性被害を避けて書けなかった。本を出して、今ここで何が起こっているのか、読んでもらわないといけないって思いました」