連載

悩むな、なんて無理な話。育児で悩む母親を「贅沢者」呼ばわりしないでほしい

【この記事のキーワード】

不妊の立場を想像する

でも私は、不妊に悩むことなく自然に妊娠し出産した。だからそうでない人の気持ちはやっぱりわからない。そこでまず、不妊について知識を得ようと思った。

日本産科婦人科学会は2015年に「不妊」である状態だと定義づける期間を2年から1年に縮小したと発表した。この背景として、日本では晩産化により女性が妊娠する年齢が上がっており、夫婦が早期に適切な不妊治療を受けることが必要なことから、改めるというものだった。

「卵子の老化」という言葉がテレビ番組や雑誌で取り沙汰されるようになり、35歳以上の高齢出産に該当する女性の多くは焦りや不安を覚えただろう。さらに「不妊」という言葉をあちこちで耳にする機会が増えた今、20代の女性であっても、避妊していないのに2年も3年も授からなければ「自分も不妊……?」とピリピリした感情を抱くのではないか。

国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、日本で実際に不妊検査・治療に臨んだことがあるという夫婦は17.9%。「不妊を心配したことがある」と答えた夫婦に至っては31.1%にも及ぶ。つまり約3人に1人は「自分は子供をもつことができないんじゃないだろうか」と不安に思った経験があるわけだ。

その不安が頭を過った程度の人から、夜も眠れないくらい深刻に悩んだ人まで程度の幅はあるだろうが、呑気に構えていたとしても、もし何年も妊娠せず周囲が次々と妊娠・出産し、親をはじめ周囲の人間から「子供はまだ?」と急かされたりすれば思いつめてしまうものだろう。

 

前出の私の親戚の女性は、何年も「タイミング法」(超音波検査で卵巣の様子や卵胞の育ち具合を確認し、その後も何度も検査を繰り返し排卵時期を予測。指定された日に性行為に及ぶもの)にトライしていた。単に「指定された日にセックスすりゃいいんでしょ?」というような簡単なことではない。夫婦だって、「セックスは決められた日に必ず行う」という取り決めがあると、逆に体や感情がついていかないものだという。

何度にも及ぶ検査だって楽ではないのだから、「この日・この時間」とわかれば妻は“いざ出陣”モードになるのは当然だが、疲れて帰ってきた夫は「押し付けられた義務」「プレッシャー」に感じてしまい、そのうち、約束通りに帰ってこないことや飲酒して帰宅するというケースも出てきたりする。

そうなると、自分は痛い辛い思いをしているのに「したくないから」って月に1度の大切なチャンスをフイにし逃げるとはどういうことだ? と嘆き悲しむ妻と、息苦しさを感じている夫とのすれ違いは深まるばかりだ。妻の憤りはもっともだけれど、「そこまで目の色を変えて毎月強制的にさせられても萎えてしまう」という夫の言い分も分かる気がような気がする。

私の親戚もそういったところから夫婦感の溝が深まっていき、冷えた仲でも「セックスはしなければならない」という大前提の義務はお互いに持ち合わせていたから、普段の何てことないシーンでの会話でもいちいち互いの言動が気になったり被害妄想に陥ったり、次第に大喧嘩……本当にドロドロだった(結局、妻が40歳を迎えた頃に子作りを諦めたところ、夫婦仲は一気に修復した)。

いつ報われる日が来るかもわからない無限のチャレンジに膨大な金がかかることも家計には大打撃だ。一度の治療で子が授かるケースの方が珍しく(年齢などにもよるが)、この大きな出費を、ゴールが見えないまま続けるということになる。

 

未婚時代は好きな恋人と「セックスしたいから」し、費用がかかったってラブホテル宿泊代の1万円程度。しかもそこには娯楽的要素しかなかったはず。

それが「子を作る義務」になると、すべての前提は覆され、事態は急変するのだ。

「好きだから結婚した→仲良くセックスした結果、子を授かった」という夫婦には、不妊治療に挑む人たちの本当の苦しみなどわからなくて当然なのかもしれないし、不妊治療真っ只中にいて、しかも夫婦仲にも何らかの弊害が出てきたりした人たちにが、スムーズに母になった人に「何て不平等なんだ」と憤りにも似た感情を抱いたとしてもおかしくない。

 

ここまで想像してみたけれど、でもやっぱり、育児と不妊は別の話であって、“今”育児のつらさを吐き出している人に、「でも授かっただけ幸せよ」と声をかけることは、無意味だと思う。

1 2 3

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。