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悩むな、なんて無理な話。育児で悩む母親を「贅沢者」呼ばわりしないでほしい

【この記事のキーワード】

悩まないことなんて無理だ

妊娠している女性や育児に翻弄されている女性がネット上に書く悩みは、決して「不妊で悩む人」へ向けて発信しているものではない。

だから、「そんな悩み聞きたくないです。私なんて……」と別の立場での苦悩をコメントしたり、「そんなの贅沢な悩みです」とお叱りを入れたりするのは場違いで自己中心的な行動だ。

そうしたコメントは、悩んでいる人に向かって「悩むな」と言っていることになる。そんなの無理である。

 

ネットだけではない。以前、こんな場面に遭遇したことがある。

とある飲食店。客層は女性ばかりだった。
母親同士がよくある子育ての悩みや愚痴を話し合っているテーブルがあり、そのとなりの席に居た中年女性が、母親たちに溜息交じりで声をかけた。

何と言ったかというと、「子を持てない人だっているんだから……」。だから、愚痴は慎みなさい、という注意だった。

彼女自身がそうであったのか、身近にそういう女性がいるのかは分からないが、何かしら思うところがあったのだろう。

母親たちは一気に申し訳なさそうな顔になり、小さくなって食事をしていた。別に他人の迷惑になるようなトーンで話していたわけでも、子供を無碍にするような内容を話していたわけでもなさそうだったが……。

このランチタイムは彼女たちにとって限られた唯一の息抜き時間だったかもしれないのに、その後はお通夜のような顔で、他の話題すらヒソヒソ声で食事をしている母親たちを見たら、気の毒になった。

声をかけた中年女性は「そんな話題、公衆の面前でするものじゃないわよ」とでも言いたげだったが、まるで路上で喫煙している人や満員電車で飲食している人に注意をするような調子だったのに驚いた。

ただの会話で、日常生活の相談や愚痴に突っ込まれ、「子ができない人の身にもなってみろ」と他者から言われたら、母親は小さくなるしかない。それも自分がとった発言に向けて注意されたりしたことなら、何だか自分がたちまちデリカシーのない人間に思えて必要以上に気負ってしまう。子を持った母親たちだってそれによって十分傷つく。

 

不妊治療を受けている人もそうだろうが、妊娠中だって出産だって育児だって、それはそれでまた、大変なのだ。深刻度合は人それぞれ全く異なるが、今直面している事態に眠れない日々が続き、夜な夜な泣いている人だっている。それを贅沢だとか幸せだとか決め付けることもまた、暴力的ではないだろうか。少なくとも、否定する必要はまったくないだろう。

結果的に、育児苦悩真っ只中の母親が「私は幸せな立場に居るはずなのに、こんなに辛い。だめな母親だ」と必要以上に落ち込んだり傷ついたりすることを助長している側面がある。

 

妊娠も出産も育児も「ハッピー!」な気分のまま直進していく女性もいるのかもしれないが、私はいちいち凹んでしまう質で、これまでの妊娠期間・出産・育児期間に味わった苦しみでもうお腹いっぱいなのに、やっぱりまだまだ苦労も悩みも尽きない。

産んだら産んだで、一人じゃ衣食住ままならない小さな息子の姿に「ちょっと目を離したら死ぬんじゃないか」という心配で眠れなくなってしまう日もいまだにある。さらにネガティブな想像が膨らみ、これから先息子が大きくなって一人で外出するようになったら、事故とか変質者とか危険がいっぱいだ……と、最悪な将来を妄想してしまい何も手に付かなくなることもある。

こういった「心配」の類は、実母によると「一生続く」のだそうだ。子供の成長に伴う喜びだっていっぱいあるだろうが、この心労が一生続くなんてそれ自体が心配でならない。

ネガティブ妄想もさることながら、現実的な問題として、いつの間にか自由といえる時間は限りなくゼロになったし、付き合う友人だって一気に減った。こういったことを「そんなの幸せだ、贅沢だ」と、勝手に否定されるのは違うと思う。私が今直面している壁であることには違いないのだから、土足で踏みにじられたくはない。

 

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