先輩ママをお手本にするのは無意味
私がTを「先輩ママ」として持ち上げ、自分は未熟者なので教えてください……というスタンスで応じていれば満足なのだろうか。いや、Tと話していると、私の息子がまるでTの監視下にある子かのようだ。
Tが「かわいそうだ」と決めつけ、「抱っこが足りない」と奪うようにして抱いているその赤子は、紛れもなく私が妊娠や出産に耐え抜いて産んだ子供だ。保育園に行こうが一人遊びしようが完全ミルクだろうが、それらは母である私が、自分と息子にはこのやり方がベストだと信じ、選んだ方法であり、Tが介入する余地はない。
何より今、この子はこんなに元気でこうして遊びにも来ているのだから、何がかわいそうでどこが間違ってると言うのだろう。
世の中には「苦労すればするほどえらい」というわけのわからない育児文化があるが、この日もそれを痛烈に感じたエピソードがあった。
私の息子は初対面だろうが何だろうが誰に抱かれても嫌がらない。要は「ママにベッタリ」なタイプではないのだが、これもT曰く「やっぱ、スキンシップが足りてないんじゃない? おっぱいもあげないし。愛情の欠如だよ」だそうだ。
捉え方次第だな、と思った。むしろ私は息子が誰に会っても喜んで抱っこしてもらえて、幼いうちからたくさんのコミュニケーションが取れることを「良いこと」だと思っていたし、「ママ」である私じゃなくても笑顔を振りまき、可愛がってもらえたり世話をしてもらえるのは、私自身もとてもやりやすかった。
逆にTの息子は「ママにベッタリ」タイプで「パパでもダメ」、何かにつけ「ママ」を探して泣き、大変だそうだが、Tはそのことをとても誇らしげに話す。でもこれも捉え方次第で、同じ状況で「本当に大変で、身動きとれなくて、つらくて……」と病んでしまう親もいるだろう。
Tが自信満々にマウントを取ろうとするのは、自信のなさの裏返しのように思える。自分の育児を、ひいては彼女自身を肯定するために、Tとは違う育児方針の私を責めて私の息子を「かわいそう!」と言うのではないか。
自分は片時も我が子から離れず大事に育ててきたが、愛は「ママ」としての責任を全うせず息子と一定の距離を取っている。自分のほうが正しいはずだ、と。
でも、どちらかしか正しくない、なんてことは、あるんだろうか。
母子密着育児が推奨される風潮は未だにあるし、こうしてTのような「ママ友」などもいる中で、惑わされず自分と息子に合ったやり方を模索しここに至るまで、私は結構、苦労した。
でも実際に行政サービスを活用し、自分以外の大人にも息子の育児にかかわってもらい、ミルクで育てている今、すごく快適だ。最初から「産んだらそうしよう」と計画していたわけではなく大体なりゆきで選択したことだが、いざやってみると、私と息子にはこの方法が合っていたのだと思えている。
結局は以前にも書いたように、「先輩ママ」のTは「とにかく褒められたい」自己顕示欲のかたまりだったのだろうが、それをたった1日(数時間)のうちにここまでフルコースで堪能させられた経験はなかったので、記しておきたかった。
何度も強調するが、どのような育児を遂行するかは、育児する当人が決めることだ。
それを傍から正解・不正解と審査する人間がおかしい。その“正解”の概念は当事者の母親ごとに異なるだろうし、第一、「この育児生活は正解だった」とわかるとしたら、ずっと先の未来のことなのではないだろうか?
「先輩ママ」は、お手本でも先生でもない。育児に向き合う責任を持った同志の他人でしかないのだ。もちろん情報共有すれば得なことだってたくさんあるが、所詮その程度だ。
“そんなこと言っても他のママの情報がなかったら、子のトラブルのときどうしたら?”とか、“自分じゃ判断できない事態が起きたなら?”と思うのなら、医師や地域の保健師など、専門家に聞けば良い。自分に合ったやり方を見つけ、本当に困ったときは親でも先輩ママでもなく、専門家を頼る。それが当たり前になってほしい。
そして、Tのような「先輩ママ」のターゲットになった時に、「ああ、これがこの人の習性か」と華麗にスルーできればと願う。
<バックナンバー>
▼1/「正しいお母さんのルール」が満遍なく染み渡ったこの世界が気味悪い
▼2/「ベビたん」エコー写真の公開は聖母化したいプレママの自己暗示ではないか?
▼3/先輩ママのネガティブな次回予告「産まれてからの方がもっと大変だよ」は何を意味しているのか
▼4/「乳首を吸われたくない」私が完全粉ミルクを選択した理由と、母乳信仰
▼5/新米ママが「頑張っているアピール」を怠ると先輩ママからフルボッコにされる、荒んだ育児文化がある
▼6/帝王切開は「産む」じゃなく「出す」!? 産婦を追い詰める世間の認識と、当事者が抱える闇
▼7/イクメンとかいう言葉そのものが、妻にとっては邪魔でしかない
▼8/育児で悩む母親を「贅沢者」呼ばわりしないでほしい