「たったひとりの運命の人がいる」っていう幻想に囚われて結婚した/小谷野敦×枡野浩一【2】

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「枡野さん、なんか常に女性に襲われているような…」(小谷野)

枡野 あの~、う~ん、まぁ、23歳のときの例を言うと……。僕、専修大学っていう(小谷野さんの出身大学とくらべたら)とても頭の悪い……「なぜ小谷野さんは専修大学の枡野さんとつきあってるんですかね?」って(小谷野さんが小谷野ファンに)問いかけられてしまったことがあるくらいの大学(経営学部経営学科)に、ついていけなくて……半年で辞めてるんですね。そのあと予備校生になったけど、やっぱし大学受験失敗して……。

小谷野 それはどこ受けたんですか?

枡野 それこそ高望みして早稲田とか受けたんですけど、落ちちゃって。結局その後、大学進学はあきらめちゃうんですね。そしてリクルートという会社でアルバイトを始めるんです。アルバイトといっても朝から晩までスーツを着て働く仕事だったんですけど。そこの仕事で出会った年上の女性が、(文芸誌の)『ユリイカ』とかに詩を書く人だったんですね。投稿詩人。僕、偶然その人の詩を読んでたんですよ。で、ちょっとお話ししたときに「私、詩を書いてる」って言われて、名前聞いたら、えっ、それ知ってるって思って、仲良くなって。どっちかっていうと、むこうが熱心にアプローチしてくるようになって。僕は頭で好きになった人は肉体関係持たないようにしてきたから、ずっとただの友達みたいだったんですけど、ついに向こうがあるとき襲ってきて、ああ、さすがにここまで求めてくれるのならと思って僕からも……。

小谷野 もうちょっと具体的に。

枡野 具体的に言わなきゃダメですか?

小谷野 場所はどこですか?

枡野 彼女の部屋で……

小谷野 部屋に行ったんですか?

枡野 はい。仲良かったし、彼女、きょうだいと住んでたんですよ。

小谷野 きょうだいってのは姉ですか妹ですか?

枡野 弟さん? 妹さんもいたかな? なんか三兄弟で住んでて。僕とつきあってたときは弟さんしかいなかったかな。妹さんが出入りしているような。南の地方の方で。東京にアパート借りてて、弟さん途中で彼女ができて引っ越していっちゃった……。きょうだいぐるみで仲良かったんですよ。だから、わりと油断して行ってて。で、いつまでたっても僕がなにもしないので、向こうが業を煮やして、あるときキスをされて、僕はキスが嫌いなんですけど、あの、キスをしていただいて、半分押し倒されるみたいなのがあったので……

小谷野 時間は何時ごろ?

枡野 昼間でしたね。

小谷野 なるほど。

枡野 だからそのときは、「あ~あ、詩人として知りあったから、そういうつきあいだと思ってたのにな……」という気持ちで、でも、してしまいました。

小谷野 できたんですか?

枡野 うん、まあまあ。当時はインポじゃなかったので。

小谷野 や、だけど最初のときは緊張してできないとか……。

枡野 あ、童貞だったからってことですよね。あのね、僕は童貞だったんですけど、むこうが経験あったのと……。下手だったし、ちゃんとしたセックスになってたかどうかはわからないんですけど、1回目は。そのあと、何度もそういうことがあって。

小谷野 それはちゃんとコンドームはしてたんですか?

枡野 それが、しなかったんですよねえ。なぜかっていうと、むこうがすごく熱心にやろうとしていて、僕が童貞でうまくできなかったんですけど、1回目はうまく合体できなかったのかな。それで次のときとかはコンドームとかを用意してたんですけど、僕がコンドームすると萎えちゃうので。それで向こうが合体したいから、「今日は大丈夫だからこのままやろう」って言ってきて、そのままやっちゃいました。

小谷野 …………。

枡野 僕は経験人数少ないので、無理やり数えても、最初にいたずらされたときの人、その初体験の女性、それで結婚相手が5人目だから、あとは2人しかセックスできてないんですよ、女性とは。

小谷野 それなりに多いと思いますよ。

枡野 多いですか? それぞれ1回ずつですよ。初体験の相手は何回かしてますけど、そのあとの2人は1回こっきりだし。5人目が結婚相手の南さん……あ、南さんっていうと生々しいね……まぁ結婚相手とだけはやたらやってましたけど。だから僕、そのあとはもう女性とは……。

小谷野 枡野さん、なんか常に襲われているような……

枡野 そうですよ、僕、自分からは行かないですもん。あの、なんだろう、うん。

小谷野 恋愛至上主義というのとも、また違う気がしますね。

枡野 そうですね。ただ僕、一般の方の恋愛がどういうものかわからないし。今朝も松尾スズキさん[注]のコラムを『TVブロス』で読んだら、高校生のときとかは気が狂うくらい性欲があって、テレビとか観てもすぐ立っちゃうし、ついには男性タレントとかで抜いちゃってたって書いてて。それで、今の若いタレントさんとかに「オナニーとかどれくらいするの?」って聞いたら、「週に3回くらい」って言ってたが、残りの日はなにしてるんだ! 信じられない! みたいな感じのことを書かれたんですよ。でも僕もそんなにしなかったなっていう印象があって……。

小谷野 そんなにしなかった……っていうのは、してたの?

枡野 オナニーはしましたけど、そんなに毎日は。松尾さんくらい、テレビ観ててすぐ立っちゃうようなことはなかったですね。あとコラムニストの押切伸一さんだったかな、若いころは可愛い子を見るだけで立ってしまった、って書いてて。えっ、変態じゃないかこの人!? と思ったけど、でも意外とみんなそういうこと言うから、あ、自分が変態だったんだなって、今は思ってますね。

(つづく)

【第2回の注釈】

■寺山修司
1935年生まれ。歌人、劇作家、演出家、小説家、映画監督、俳優、詩人、俳人、エッセイスト、競馬評論家etc。劇団『天井桟敷』主宰。1971年、映画『書を捨てよ、町へ出よう』でサンレモ映画祭グランプリ受賞。同年、演劇『邪宗門』でベオグラード国際演劇祭グランプリ受賞。1974年、映画『田園に死す』で文化庁芸術祭奨励新人賞・芸術選奨新人賞受賞。1984年、「住居不法侵入」で逮捕され、略式起訴処分。「のぞき現行犯」と報道された。1983年没。寺山が嘘について語った言葉では、≪ホントよりもウソのほうが人間的真実である、というのが私の人生論である。なぜなら、ホントは人間なしでも存在するが、ウソは人間なしでは、決して存在しないからである。≫――が有名である。

■『かんたん短歌の作り方』
枡野浩一による短歌入門書。単行本の際の副題は「マスノ短歌教を信じますの?」。表紙イラストは南Q太。

■『CUTiE Comic』(キューティ・コミック)
宝島社が発行していた少女向けの月刊漫画雑誌。1998年にファッション雑誌『CUTiE』から派生する形で創刊された。2001年7月号限りで休刊。

■『病む女はなぜ村上春樹を読むか』
小谷野敦・著。≪村上春樹の作品にしばしば出てくる「精神を病んだ女」の原型には、おそらく村上春樹が実際に知った色情狂(ニンフォマニア)の女がいるはずだ。この「精神を病んだ女」を男の視点から描くというのは、それほど古い伝統があるわけではない。肺結核による死のあと、一時ブームになった白血病の死を挟んで、古井由吉の「杳子」あたりからトレンドになっていった文学上の新しいファッションなのだ。本書は、世界中で多くの読者を惹きつける村上春樹の作品を、この「精神の病」を軸に、「性」「私小説」「政治と文学」「俗物論」などの視点から読み解く。≫(amazon内容紹介より)

■『100万回生きたねこ』
絵本。佐野洋子・作。あらすじは……<100万回生まれ変わり、100万人の飼い主にかわいがられたオス猫は、しかし100万人の飼い主たちが嫌いだった。あるとき、飼い主のいない野良猫に生まれ変わったオス猫は、メス猫たちからモテまくる。しかし、オス猫は自分が大好きだったので、言いよってくるメス猫たちには見向きもしなかった。だが、自分に興味をもたない白いメス猫が好きになり、そのメス猫との間に子供をもうけ、そのメス猫が死んだあと、自分も死に、そして二度と生まれ変わることはなかった……>というもの。

■『君の名は。』
アニメーション映画。監督・原作・脚本・絵コンテ・編集・撮影/新海誠。2016年最大の国内ヒット映画であり、12月6日時点で興行収入200億円を超えている。

■松尾スズキ
演出家・脚本家・俳優・エッセイスト・作家。劇団『大人計画』主宰。1962年生まれ。『ファンキー! 宇宙は見える所までしかない』で第41回岸田國士戯曲賞を受賞している。映画監督作品に『恋の門』、『クワイエットルームにようこそ』『ジヌよ、さらば』、小説に『同姓同名小説』『宗教が往く』『老人賭博』などがある。ちなみに枡野浩一は映画『恋の門』に出演している。

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■小谷野敦さん
1962年生まれ。作家・比較文学者。東京大学文学部英文科卒業、同大学院総合文化研究科比較文学比較文化専攻博士課程修了、学術博士。『聖母のいない国』でサントリー学芸賞を受賞し、『母子寮前』『ヌエのいた家』で芥川賞候補になるなど、これまでに数多くの評論・小説・伝記などを発表している。また、“大人のための人文系教養塾”『猫猫塾』も主宰し、“猫猫先生”とも呼ばれている。

小谷野敦 公式ウェブサイト「猫を償うに猫をもってせよ」
『猫猫塾』HP

(構成:藤井良樹)

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