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「枡野さんは女が好きなんじゃなくて、“物を書く女”が好きなんですね」と指摘する小谷野さん。前回に続いて“自分の中の男子性のなさ”を語る枡野さん。さらに、改めて正面から「枡野さんはなぜ離婚されたと思ってるんですか?」とたずねる小谷野さんに対し、真正面から答えつつ、逆に「僕の離婚原因はなんだと思われました?」と問い返す、枡野さん。そして小谷野さんが返した、あまりにも直球な回答とは……。
好きになっても、その人と合体したいとか思わない(枡野)
小谷野 枡野さんが「愛が信じられなくなった」っていうのは、もともと、なんか普通じゃないんじゃないのかな。
枡野 そうですね。もともと恋愛に興味なかったかといえば、そうです、実は。
小谷野 それを小説に書けばいい。
枡野 ああ、そうかぁ。でもわかんなかったんですよ。自分の興味とみんなの興味がどこまで違うかは、ほんとわかんないじゃないですか。
小谷野 いやだけど、人の文章とか読めばわかるじゃない。
枡野 みんな正直じゃないんですもん。
小谷野 いやいや(笑)正直な人もいますよ。
枡野 たとえば『君の名は。』を観ても、主人公の男の子はオナニーとかしないんですけど。
小谷野 なんでそこで『君の名は。』が出てくるの?
枡野 『君の名は。』っていう、小谷野さんがご覧になるときっと怒るアニメがあるんですよ。“たったひとりの運命の人”っていうのを描くために多くの人を殺すっていうアニメなんですけど。なんていえばいいだろう……ネタバレになっちゃうけど……有名なアニメだからいいか……
小谷野 いや、やめたほうがいいです。
枡野 はい。
小谷野 だからそういうのじゃなくてね、『オリンポスの果実』[注]とかね。
枡野 ああ、さすがにそれは読みました。
小谷野 ああいう風にね、好きになるんですね。
枡野 だから僕、女性を好きになっても、その人と合体したいとかにはなんないんですよね。
小谷野 結婚したいとは?
枡野 う~ん、だから結婚相手はそう思ったから結婚したんですよ。でも……
小谷野 それはやったあとですよね?
枡野 やったあと、やったあと。
小谷野 しかも子供もできたあとですよね。それはかなり刹那的ですよね。
枡野 う~~ん。
小谷野 だから、なにもしていないうちから、「いずれはこの人と結婚するんだ!」とは思わなかった?
枡野 思わなかった。
小谷野 それはやっぱり普通じゃないね。
枡野 あと男子がクラスメイトの女の子の名前を全部知ってて、ランキングつけたりするんですよ。AKB48みたいに。そういうのもま~~ったく全ッ然理解できなかったですね。
小谷野 小学生とか中学生のときとか……高校とか、好きな女の子とかいなかったんですか?
枡野 高校も共学でしたけどね、あんまりいなかったですね。高校の文芸部の女の子で、メガネとると美少女の子がいたんですけど、「ああ、美少女だな」ってちょっとドキドキはしましたよ。ふたりで三角形の乳酸菌飲料が3つついてるやつ、“コーラス”とかいう名前の。それを分けあってチューチューって飲んでドキドキしたっていうのは覚えてますけど、それだけですね。
小谷野 さっき詩人の人を好きになったって言ってましたけど、枡野さんが好きになる人ってみんな物書きなの?
枡野 おっしゃるとおりでございます。そのとおりですね。ほんとにそうですね。ほぼひとり残らずそうですね。
小谷野 そうだろうと思いました。枡野さんは女の人を好きになるんじゃなくて、物を書く女の人を好きになる……
枡野 はい。
小谷野 普通は女という属性に対して「好き」が働くんだけど、枡野さんは「物を書く女」ってところで働くんですね。もしかしたら、それは男にも働いてるんじゃ?
枡野 あっ! それは……時々考えますよ。松尾スズキさんがもしゲイで、万が一僕のことがタイプだったらどうしよう、とか考えたことがありますね。そしたら、まぁ、どんなことを要求されるかによりますけど、松尾さんなら「しょうがないな」って受け入れるだろうなって思ってました。
小谷野 そ、そうですか(笑)。
枡野 松尾さんには失礼な話ですけど。
小谷野 それで『猫猫塾』では、どういう小説を読んできたのかということも聞くんですが、枡野さんはどうですか? なんか枡野さんは田中りえ[注]とか、峰原緑子[注]とか、意外とマイナーな最近の女性作家には詳しいんだけど、古典的なものはどうですか?
枡野 それがですね、そんな読んでないかもしれません。たとえばどんなものが古典的なんでしょうか?
小谷野 シェイクスピアは?
枡野 ああ、読んでないですね。
小谷野 ヴィクトル・ユーゴー?
枡野 読んでないです。僕が古典的なものも読まなきゃと言われて読んだのは、数少なくて……海外のものは読んでないですね。ピンポイントでは読んでるですけど。あの、太宰治とかは全部読んでるんです。たまたま仕事で読む必要があって。
あと、もうちょっと現代の作家だと、北杜夫とか筒井康隆も全部読んだし。(ひとりの作家を)全部読むっていうのが高校生のときは自分の中で流行っていて。ただ、凄く本が好きでもなかったんで、最初は星新一から入って、星新一を全部読むと筒井康隆も全部読みたくなって。でも小松左京は全部読みたくなくって。で、北杜夫があのへんと仲良かったから北杜夫も全部読んで、遠藤周作も全集をけっこう読んでるんですよ。だからそのへんの人はいっぱい読んでいて。
あと、だんだん好きな作家が出てくるから、干刈あがたさん[注]っていう死んじゃった、10年間しか活動しなかった作家とかは熱心に読んでたりとか、増田みず子さん[注]とか、自分の肌にあう人を見つけては網羅的に読んでいくって感じだったんですね。あと中学生か高校生のとき、三田誠広とかも好きで全部読みましたね。だけど古典的なものは人に薦められてどうしてもってときは読みますけど、あんまり読んでないんですよね。それで、たまたま図書館に入ってるマイナーな(文芸誌)「早稲田文学」とか、そういうのに載っている小説をつい読んじゃっていたので……。
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