
(C)messy
対談もいよいよ佳境に入り、より一層、小谷野さんの鋭すぎる「枡野さん批評」が連発されます。
「枡野さんは他人に自分を批判させておいて、それを飲みこんでしまう、ブラックホールなんですよ」――etc。これまで、ある意味、誰もがなんとなくそう思っていた枡野さんに対しての「感じ」を、それこそ一切の躊躇なく平然とぶつけていく、小谷野さん。そして枡野さん自身も、それを正面から受け止めようとします――。
「女から誘われてのセックスばっかり…」(小谷野)
小谷野 まずなによりね、私は、枡野さんが女の人を好きになって口説くという情景が想像できないんですよ。
枡野 あまり口説かないですもの。
小谷野 聞いてると、女のほうから誘われてセックスしたっていうのばっかり……。
枡野 そう言うと、僕がすごくモテる人みたいだけど、ものすごく数が少なくて、珍しいことだから。
小谷野 その女の人たちは他の男の人もそういう風に誘ってるわけでしょ?
枡野 まぁそうかもしれませんね。
小谷野 や、普通そう思いますよ!
枡野 あんまり僕ね、そういうこと、想像力が働かないんですよ。
小谷野 ははは……。まぁね、だからたとえば、女の人に「うなぎ食べにいこう」とかね、枡野さんはそういうこと言わないんじゃないですか?
枡野 う~~ん。 僕、昔、ある映画に誘われて、その映画を一緒に観にいった女性がいるんですけど。(その女性は)本当に映画が観たいだけだと思って、ただ映画を観に行ったんですよ。そしたらその人はデートだったつもりみたいで、(映画を観終わった後に)ご飯を食べることを考えてなかったら、すっごく怒られたことがあったんですよ。「や、僕、食べ物に興味なくて……」って言ったら、「私は食べ物に興味あるし、今日は楽しみに来たのーーッ!」って、怒って帰っていったんですよ。
小谷野 食べ物に興味ないんですか?
枡野 ないんですよ、僕。ババロア以外。
小谷野 くくく……。
枡野 その人は仕事で知り合った女性だったから、本当に(その人が)その映画が観たくて、本当にチケットがあるから一緒に行かないって言ってると……。確かに誘うときの常套手段の言葉だけど、(僕は)その言葉通りに受けとめちゃうことがあるので。
小谷野 それは何歳のときですか?
枡野 それは、もう童貞は捨ててて、ライターになってたから、25歳くらい……。相手は年上の女性でした。
小谷野 で、でもまぁ、でもまぁときどきありますよ、そういうことは。
枡野 でも今思えば、鈍感にもほどがあるかもしれませんけれど、普通にだって観に行きますもん映画なんて。女性だって男性だって。どうですか、みなさんは?
会場 …………(無言)。
小谷野 ま、でも普通、誘われたら、思いますよね。なんかあるんだろうとは……。
枡野 あんまり、なんか、でも僕、仕事とかでもしたいときは、「その仕事、僕、したいです」っていうようにしてて。でもみんな、“自分はそんなにしたくないんだけど、まわりの人たちがお膳立てしてくれて、するようになっちゃいました”みたいに言うじゃないですか。それ、僕、いやなんです。だから「自分がしたいから、しました」って言うんですけど。だから女性もたまには、「したいから、する」っていう人もいますけど……。
小谷野 あの……すき焼きとか食べに行ったり。
枡野 僕、肉、ダメなんですよ。
小谷野 あ、肉、ダメなんですか?
枡野 肉、食べますけど。でも焼肉とかに誘われると「焼肉かぁ……」って。
小谷野 じゃあ、ババロア以外で食べたいものってなんですか?
枡野 湯葉。
会場 (笑)
小谷野 軽いですね。スリムな体型を保ってるのがわかる……。
枡野 湯葉とか豆腐料理、食べたいですね。精進料理。
小谷野 だからやっぱり、お坊さんっぽいんですよ(笑)
枡野 お坊さんになるといいのかもしれませんね。
「でも僕、惨めな男になりたいんですよ」(枡野)
小谷野 枡野さんは10年前に『結婚失格』[注]を出して、町山(町山智浩)に怒られたじゃないですか。
枡野 はい。ものすごく怒られました。
小谷野 でも、またこれ(『愛のことはもう仕方ない』)を書いたわけでしょう?
枡野 だからこの本は、町山さんへのアンサーも込めたつもりなんですよ。
小谷野 どこがアンサーなんですか?
枡野 (町山さんに)怒られはしたけれど、あの解説(町山さんによる『結婚失格』の解説文)には、主人公は子供に会いたいということで、ずっと元奥さんにストーカーみたいにつきまとってるけど、もしも子供に会えてたら、ただの女に捨てられた惨めな男じゃないか、って書いてあるんですよ。でも僕、惨めな男になりたいんですよ、子供に会うことで!
っていうことはあの場(かつて枡野さんの離婚などを巡って町山さんと公開トークした場)では言わなかったんで。そういうことを言わないまま来ちゃったんですけど、言うべきだと思って、そういうことを本に書きました。
小谷野 あの場には切通(切通理作)[注]もいて、「自分も子供には会えてない」とか言ってましたよね。あの後、会えたみたいですけどね。
枡野 そうですか。切通さんなんてね、ああ見えて無頼派というか、「火宅の人」じゃないですかねえ。
小谷野 「火宅の人」ってほど、カッコ良くない。
枡野 まぁそうだけど。でも話を聞くと、ものすごく女性に積極的な人なんですよ、切通さんって。
小谷野 私が枡野さんに出会ったのは切通のトークショーで。彼は大学時代に土下座してセックスさせてくれって。
枡野 そうそう。切通さんは土下座してセックスさせてもらうんだって。僕はそんなこと、したこともないです。
小谷野 普通、ないですよ!
枡野 や、全然わかんないです、切通さんは。なんか、乙女ちっくなところとかは僕と近いと思ってたんですけど。
小谷野 乙女ちっく?
枡野 だって、ちょっとだけ交流のあっただけの女性をずっと想いつづけて、 『失恋論』[注]っていう本にしちゃうとか……。
小谷野 や、あれは、●●●●●……。
枡野 名前は僕、知りませんけど。
小谷野 でも私はね、●●●●●を好きになるなんて、切通ってまともなんだなと思いましたけどね。
枡野 そうですか。小谷野さんも好きになりました?
小谷野 や、声を聴いたらそうでもなかったけど、顔を見てると好きな感じですね。
枡野 そうですか……。
小谷野 物書くし。
会場 (笑)
小谷野 そういえば、東大じゃなかったですか?
枡野 ●●●●●さん? そうなのかな。
小谷野 だから、私にはドンピシャ。
枡野 小谷野さんは、頭良くて綺麗で、なおかつ物書く人が好きなんですね。
小谷野 まぁそうですね。
枡野 くっくっく(笑)
小谷野 それでね、小学校時代に好きな女の子がいたんですけど、武蔵小杉っていう地名に萌えてた、小杉さんって人なんですけど。この人は成績も良くて運動もできた子なんですよ。そんな美人じゃなかった。ただ私は美人でも成績の悪い子は好きにならなかったんです。
枡野 それもでも小谷野さん、だいぶ変わってますよ!
小谷野 かもしれない。
枡野 はい。
小谷野 だから、いまちょっと問題になってる「東大生女子を排除した東大サークル」ってあるじゃないですか?
枡野 ありますあります。
小谷野 あれは理解できないね。東大生の女を排除してなんの意味があるんだ?
枡野 それは、一般の男性は自分の学力にコンプレックスがあって……。
小谷野 でも東大生なんだよ?
枡野 でも、自分のつきあう女性は頭いい人じゃないほうがよくて。「何何くんの問題はここよ」とか言われたくないんですよ、男って。
小谷野 私、言われたいですね。
枡野 そこですよ! 普通の男は、「え~すごーい♡」とかキャバクラで言われるのが嬉しいわけですよ。
小谷野 わけもなく……。
枡野 はい。そこで小谷野さんみたいに、頭が良くていろいろ言ってくれる女性が好きっていうのは、男性としては少数派ではありますよね。
小谷野 あの、辛島美登里の歌とか聴きませんか?
枡野 ちょっと聴いたことはありますけど。
小谷野 辛島美登里の歌にね、女の立場から、“天文学者になりそびれたあなたの夢を聞かせて”って歌[注]があるんですよ。“照れないで聞かせて”って。“わかったふりをして、あなたの顔をみつめてたい”っていう。
枡野 すごい歌ですね。
小谷野 私はその歌が嫌いなんです。
枡野 ハハハハ(笑)なんで嫌いなんですか?
小谷野 「女はバカだからわからない」っていうのがね。
枡野 でもそれ、多数派ですよね。
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