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「僕、ストーカーですよ!」と宣言する枡野さん。ただストーカー対象が「でも息子ですよ?」とも訴えます。しかし小谷野さんはそれでも追及し、枡野さんは「ストーカーは克服できるのでしょうか?」という問いかけを。果たして枡野さんは「ストーカー」を克服できるのでしょうか。さらには、小説に書けるようなことが多くあるのに、それを見ようとしない枡野さんに、さすがに小谷野さんが怒りだし……。
「『ストーカー顔』ということで」(枡野)
枡野 僕、ストーカーだとは言われますよ、本当に。でもね、前からね、もう結婚前からストーカーっぽいって言われたんですよ。
小谷野 そうですか。
枡野 そして、初めてやった演劇の役もストーカーだったんですよ。(劇団の)『五反田団』[注]で。顔が「ストーカー顏」ということで。
小谷野 はいはい。
枡野 だから、抗えませんね。「書いてることがストーカーまがいだ」って町山さんにも言われましたけど、まぁそうでしょう、きっと。
小谷野 あのね、中島みゆきの最初の歌の『時代』ってあるでしょ。あれ、罪深い歌詞だと思うんですよ。あれ、ストーカーやってる人間が聴いたら、「よし、いずれは!」と! 「そんな時代もあったと、相手の女性といつか話せるんだ!」と!
枡野 そこまで思ったことはなかったですけど、そう捉える人がいてもおかしくないですね。
小谷野 よく聴くと、今日ね、別れてしまった恋人たちも、生まれ変わったらまた巡り合うと。生まれ変わったらだから、本当はあり得ないんだけど……。
枡野 この世ではね。
小谷野 でも、いつか笑って話せるとか歌われると、50歳くらいになったら笑って話せるような気がするでしょ?
枡野 う~~ん。
小谷野 でも、そんなことはないんです。
枡野 僕もあと2年で50歳ですからね。無理無理。
小谷野 枡野さんは、もう性欲とか枯れてきたとかはないですか?
枡野 (枯れたというのは)ありますよ、ありますし……。う~ん、だからもう子供のことも、本当はこの本を書くことであきらめようと思って書き始めたんですよ。無理だったんですけど。でも、もう一生会えないかもとも思ってますよ……。
小谷野 けど枡野さん、(会えない息子さんのことを)検索するじゃないですか? 将棋をしているとか。
枡野 はいはい。
小谷野 あれねえ、検索して出てくる相手をストーカーしちゃうというのは……悲惨なんですよ。
枡野 でもだって……息子ですよ?
小谷野 いやいやいや……息子でも……。いやこれ、動物だったらね、自分の遺伝子を持ったものを他所で育ててくれているというのは、凄いアドバンテージなことなんですよ。
枡野 それはそうらしいですね。橘玲さんの本(『言ってはいけない―残酷すぎる真実――』[注])に書いてありました。女性にとって一番良いのは、すごく優秀な遺伝子を持つ男の子供を産み、その子供を別の男に育てさせることで、それが遺伝子にとっては一番得なんだと。そう書いてありました。
小谷野 普通、動物のオスだったら、メスが育ててる間に他所で子供つくって、自分の遺伝子をばら撒くんですよ。
枡野 それはできなかったですねえ。僕が違う恋人とかできたら、みんな安心すると思うんですね。でもそうはなんなかったんですよね。
小谷野 それはそうでしょ。だって枡野さん、女を口説けないんですから。
枡野 そうなんですよ。あと僕、もう懲りちゃってるんで、どんな人とつきあおうとしても、どうせまたダメになっちゃうだろうとか思ってしまうので。ダメですね、もう。そこはもう小谷野さんみたいに最初の女性と……結婚はしてたけど籍は入ってなかったんですか?
小谷野 ま、まぁまぁ……。
枡野 そんな方とも別れて、新しい奥さんとも結婚してみたいな……健やかな感じにならなかったんですね。
小谷野 …………。
枡野 ただ、子供ができたこととかはまったく悔やんでないし、ありがたいと思っているし。もし自分が一緒に育ててたら、「将棋なんかやるのはダメだ」みたいに言いがちな自分なので、僕が近くにいなかったことが息子の人生にとっては良かったんじゃないかって、自分を納得させようとはしていますけどね。
小谷野 う~ん……。
枡野 けど小谷野さんくらいですね。「枡野さんはストーカーで、町山さんは本当は枡野さんがストーカーであることを怒ってるんだよ」という解釈をしてくださったのは……。みんな思ってても言わないのかな……。
小谷野 他の人は遠慮しちゃうんですよ。
枡野 そうなんですね。なんでみんな遠慮がちなんだろう?
小谷野 それは、枡野さんが遠慮させてるんですよ。
枡野 でも僕は言ってほしいなぁ。
小谷野 枡野さんはさ、「この人にこんなこと言ったら死んでしまうかもしれない……」とか思わせるんですよ。
枡野 う~ん、死んでしまうかもしれませんけど、言ってほしいですよ。
小谷野 や、私は冷酷な人間なんで、言いますけどね(笑)。
枡野 僕も、これで死んだとして、小谷野さんに言われたからだとかは思いませんよ。事実を言っていただいたと思いますよ。