執着をなくしたら、死んだも同然の人間/小谷野敦×枡野浩一【5】

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「小谷野さん自身はどう克服されたんですか?」(枡野)

小谷野 いや、だから、あのねえ……。検索すると出てくるというのは、普通の人だったら検索しても出てこないんですよ。

枡野 まぁ、そうですね。

小谷野 だから、検索すると出てくる人にストーカーしてしまうと、「検索魔」になってしまう。

枡野 なってますね、僕、まさに……。そうなのかぁ……。でも小谷野さんは、まずご自分のお父さんがお嫌いじゃないですか。僕も考えてみたら父親そう大好きじゃないなと。だったら、自分が自分の息子に愛してもらおうというのは甘いなとは思いましたよ。

小谷野 それは関係ないと思います。そういえば、枡野さんのお父さんがKindleで出してる画集、観ましたよ。

枡野 やぁ~~、よくそんなの探し出しましたねぇ……。

小谷野 いいじゃないですか、ああいうの。

枡野 ほんとですかぁ……。父はだって、光ファイバーの本とかも出していて……。あの、まぁ、いいですけどねえ、別に……。

小谷野 いいじゃないですか。

枡野 父はね、悪い人じゃないんですよ、全然。でもそんな父のことを僕は思春期のときに憎んでいたので。だからいま思春期である16歳の息子は僕のことなんか嫌いなんだろうなと思ってはいるんですけど。

小谷野 なんかそれは違うような気がするなぁ。もっと息子さん本人は、学校行ったりなんかして、いろんなこと考えてると思いますよ。

枡野 でも、学校は行ってないみたいなんですけどねえ……。

小谷野 あ、行ってないんですか!?

枡野 (プロの)将棋指しを目指してるので……。まぁでも、そのへんはどうしようもないなぁ……。でも小谷野さんが言うと説得力ありますね、僕がストーカーというのはね……。

小谷野 あっはっはっは(笑)。

枡野 あの……、小谷野さん自身は、そういうのはどうやって克服されたんですか?

小谷野 や、それは……克服したのかなぁ。してないよ?

枡野 ああ、そうですか……。

小谷野 そういえば、南Q太さんはいまどういう顔をしてるか、知ってますか?

枡野 知らない。

小谷野 あんまり出てこられないんですかね?

枡野 僕、もう彼女の本は読んでないんですよ。だからそこはストーカーじゃないんですよ、全然。

小谷野 あっ、そうですか。

枡野 ある時期から一切読んでないです。

小谷野 それは自然に?

枡野 う~ん、なんかそこはもう、彼女の人生だろうと思ってるのと、たぶん興味がなくなっちゃったんですよね。

小谷野 なるほどね。子供だけなんですね。

枡野 だからね、そこをみんな誤解してて……。特に女性が「枡野さん、奥さんに執着してて、子供を言い訳にしてる」って言うんだけど、違うんですよ、そこは。

小谷野 執着がなくなっちゃうっていうのは……?

枡野 僕、子供への執着をなくしたら、エゴサーチへの執着をなくしたら、死んだも同然の人間ですよ。食べ物に興味ないは、服とかだって10年前の服まだ着てるし……。衣食住全体に興味ないんですよ。

小谷野 そもそもなんで短歌を書いてたんですか?

枡野 短歌はいろいろやってた中で残ったんですけど。自分のどうしようもない気持ちを描くのにぴったしだったからですね。

小谷野 あの、村田沙耶香さんという人は発達障害でありながら、あれ、自分を客観的に観てますよね?

枡野 そうですよね。

小谷野 あれはちょっと不思議ですよね。

枡野 クラスメイト2人と先生の顔の区別がつかないっていう人がねえ。『コンビニ人間』面白かったですよね

小谷野 大丈夫なんですかね。まだコンビニで働けてるんですかね。

枡野 どうなんでしょう。さすがに忙しいんじゃないんですか。それで、村田沙耶香さんって『コンビニ人間』以外の小説はSFみたいな感じじゃないですか? もう恋愛っていうのがなくなっちゃった……恋愛結婚っていうのがない時代の設定(『消滅世界』)だったりとか。

小谷野 それは、最近の2作品がそうなんで。その前の『しろいろの街の、その骨の体温の』とか……。

枡野 あれ、よかったです。あれちょっと僕、ぐっときましたね。あれは、女の子が襲う小説じゃなかったですか、男の子を。

小谷野 女の子が強制フォラチオするんです。

枡野 そうそうそうなんです。

小谷野 だから、あんなもん、『文藝春秋』に載せられないですよね。

枡野 でも僕、自分の経験に近いから……。

小谷野 枡野さん、それ、小説に書けばいいじゃない?

枡野 ほんとですよねえ。

小谷野 ほんとですよねえじゃないよ!(笑) だから枡野さん、小説に書くこと、いくらでもあるじゃないですか!

枡野 ほんとですねえ、全然そういうこと、書こうと思ったことがなかった……。

小谷野 お父さんのこととか、お姉さんのこととか、襲われたこととか。

枡野 ほんとですね。そこは盲点になってるんです。あまりにも自分にとって大きいことって、「あれ、なんで書いてないんだろう」って。今回の本でもあとで思いましたもん。重要であるがゆえに、かえってそこを書かないんですね。母のことを書かなかったのも、母になにか思いがあって、避けたのかもしれないです。

小谷野 お父さんのことはよく語ってるけど、お母さんのことは未だ語ってないですね?

枡野 や! 母はけっこう僕の中で語ったこともあるんですよ。

小谷野 「中で」ってどういう意味です?

枡野 過去の本では書いてるんです。たとえば僕、添い寝とかされるのが嫌な子供で、「ママ、もういいから、あっちいって」って言うような子供だったんですよ。それでいつも母がね、「浩一はいつも寝ようとすると、あっちいけって言うんですよ」って、言ってたのが印象的だったっていう。

小谷野 可愛げがない。

枡野 はい。だから僕、そういう意味で、なんかこう子供の頃から発達……おかしかったのかもしれません。

小谷野 あとなんか、お姉さんのことを書いて絶縁されたとかの話は?

枡野 そうです。もう年賀状来なくなりましたもん。年賀メール。

小谷野 まぁ家族全員から年賀メール来るのも、また妙ですけど(笑)。

枡野 毎年、励ましの年賀メールが来てたのに、今年来なかったのは、この本を書いたからだと思いますね。姉のことをちょっと悪く書いちゃったんで。たぶん傷ついたんだと思いますよ、とても。でも、それに関しては本当にあったことだし、きょうだいなんだから背負ってほしいと思って書いちゃうんですけど。昔、(作家の)柳美里さん[注]のNHKのテレビ番組観てたら弟さんが出てきて、「お姉ちゃんは嘘ばっかり書いて!」って涙流してましたね。

小谷野 嘘を書かなきゃいい。

枡野 そうですよ。でもやっぱり、弟さんにとっては嘘かもしれないけど柳美里さんにとってはそう見えたってこともあるかもしれないじゃないですか。

小谷野 柳美里さんには私も少し困ってて……。ほら、あの人、『貧乏の神様』[注]を書いたでしょ。あの人、『命』シリーズで何億円か儲けたと思うんですよ。それがなんでなくなっちゃったんだって人に言われて、使っちゃったんだと。でも人は納得しないですよ。

枡野 でも小谷野さんの追及によって、病院代が凄くかかったこととかも(柳美里さんは)書かれてたから。ちゃんと小谷野さんの名前も出して、こうこうこうですよって説明したことでみんなが納得したから、よかったんじゃないですか?

小谷野 いやでもね、東由多加っていうのは昔の(柳美里の)恋人で、奥さんもいるわけでしょ。そういう人の癌治療に何千万円も使うとかは普通はないじゃないですか。

枡野 まぁでも彼女なら、やりそうですよね。

小谷野 や、だから、それが普通じゃないんだってことを、今ひとつあの人は理解していない。

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