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「枡野さんが性欲が薄いのは、初体験でいたずらをされたからではないですか?」という会場からの質問に対して、自らの男性との経験も話されていく、枡野さん。そして小谷野さんは「枡野さんにいま必要なのは仏教かもしれない」と言い、さらにある「宿題」を課します。その宿題とは、「ある人の視点から自分を書いてみること」――。その“ある人”とは誰なのか? それによって枡野さんにいったい何がもたらされるのか?
「男性ともやってみようと思わないですか?」(枡野)
枡野 では、これから会場のみなさんをまじえて質疑応答に入りたいと思います。今までの話を聞いてなにかご質問やご意見はありますか?
質問者 Mと申します。枡野さんが性欲があまりないという話をされたと思うんですけど、一番最初の性経験が中学生のときに年上の方にいたずらをされた――ということを仰ってましたが、性欲があまりないのはその体験が原因だということはないですか?
枡野 年齢は13歳のときだったんですけど、ひとつ先輩の女性だったんですけど。あの……原因になったとは思いますよ。僕、ある性癖があって、それは明らかにそのときの経験が元になっていますね。それは、変な話ですけど、普通のセックスというのにそんなに興味がないのは、その初体験が普通のセックスじゃなかったから、いたずらをされたということに興奮をしたので、それは明らかにあると思います。
ただそれ以外にも単純に、どうやら人よりは性欲がうすいなあっていうのは、もう認めざるを得ないことですね。そのことは将来詳しく書くと思うので、それで判断いただけたらと思います。あとは僕、小谷野さんにも「枡野さんは普通の性欲じゃないです」ってTwitterでも言われたんですけど、なんか頭でっかちなんだと思いますね。男性にいこうとしたのも、普通の男性はあんまりそんなこと思わないからで……。
小谷野 な、なにがですか?
枡野 男性ともやってみようということ……思わないですか?
小谷野 あ、思わない。私はかなり、その、ゲイはダメなので。『ブエノスアイレス』[注]という映画で、最初いきなり男と男で抱きあってる場面で、観るのをやめちゃったくらい。
枡野 ま、そういう人は多いですよね。でもけっこう平気な人もいて。僕、新宿2丁目に通い始めたのは10年くらい前からなんですけど、女性が好きだったのに男性とつきあうようになった人を調べたくて、たくさんの人に呼びかけて、たくさんの人と話したんですけど、けっこういました。奥さんも子どももいて、愛人もいたような男の人が途中からなにかのきっかけで男に走るようなことはあるので……。男に転びやすい人と転びにくい人がいて、僕は転びやすいほうなんだと思ってますね。
質問者 ありがとうございます……。
枡野 ご質問のお答えになったんだろうか、これで。
「今の枡野さんに必要なのは仏教じゃないかと」(小谷野)
小谷野 枡野さんは仏教の本とか読まれないんですか?
枡野 どんなレベルのですか?
小谷野 だから、『ブッダの言葉』[注]とか。
枡野 やさしい、子供向けの本なら読んだことありますけど。そんなに詳しくはないですね。
小谷野 なんか今の枡野さんに必要なのは仏教じゃないかという気がします。
枡野 僕、宗教家になったほうがいいですか?
小谷野 いや、宗教家にはならなくていいけど(笑)。
枡野 有名なお坊さんに枡野さんていて、枡野書店というのを僕はやっているんですけど、あるとき、息咳きってサインを求めにやってきた男性がいて。で、僕がサインしたあとで、その人が僕のことをそのお坊さんと間違えてることがわかったんですよ。
会場 (笑)
枡野 その人が「お坊さんの枡野さんですよね?」っていうから、すみません、僕は短歌を作っていて、お坊さんじゃないんですよって言ったら、すっごくがっかりされて。あのとき、曖昧に微笑んでごまかしとけばよかった。
小谷野 そのお坊さんは枡野俊明[注]ですね。
枡野 僕も遠い親戚じゃないかと期待してたんですが、違うみたいです。
小谷野 や、なんかね、私は仏教についてこの間、批判したんですけど。それは、枡野さんがさっき言ったけれど、執着というのをすべて捨ててしまったら、人間は生きていけないと。
枡野 はい。
小谷野 それは確かにあるんですが、ただ枡野さんは今、とても仏教を必要としている状況にあると思うんです。
枡野 そうですか。
小谷野 岩波文庫にある『ブッダの言葉』くらいから読んでみてください。
枡野 キリスト教とかではなく仏教……。
小谷野 そりゃ仏教ですね。だから私は今回、枡野さんと話をする上で考えていて、「あ、この枡野さんほど今、仏教を必要としてる人はいないんじゃないか」と思って……
枡野 なんとすごいサゼスチョンでしょう! 想像もしない結論に(笑)。
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