女子校はジェンダーステレオタイプの解消を推進できるか?

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今回は教育のブラックボックスのひとつである「女子校が持つ可能性」を覗いてみたいと思います。

まず、教育のブラックボックスとはなんぞや? という話から始めましょう。ある教育政策について考えるとき、多くの場合は、教育活動にあるインプット(タブレットや新しい教科書など)を投入したとき、どのようなアウトプット(学力や所得などの向上)が生み出されるか、という関係をみます。連載でもこれまで、女性の所得向上やエンパワメントといった教育活動のアウトプットに効率的に結び付くとされているインプット(奨学金や女性教員など)を紹介してきました。

しかし、このような分析では、実際に教室や学校の中で何が起こっているのか(プロセス)に注意を払わなかったり、注意を払っても指標化が難しいために十分な分析ができないということが往々にしてあります。そのため、何が起きているのかがわからない教室や学校の中を「ブラックボックス」と呼んでいるわけです。

学校・教室内での女子学生比率が女子の進学行動に影響する!?

第6回で紹介したように、日本の女子は、将来高賃金が期待できるような教育を選択していないのが現状です。進学行動に影響を与える要因は様々考えられます。例えば前回の記事では、日本の女性教員比率が先進国で最低水準であることが、女子が大学進学を躊躇する一因ではないかという可能性を指摘しました。その他にも、女子がSTEM系(いわゆる理系)学部を選択しないのは、女子が数学系科目で大きく男子よりも成績が劣るわけではない一方で、言語系の科目で男子を圧倒しているため、言語系の能力を活かせる学部へ進学しているというのも理由の一つでしょう。

今回、注目するのは教室・学校内での女子学生比率です。

アメリカの女子大で、共学と比べて理系を学ぶ女子学生の比率が高かったことから「女子学生の割合が女子の進学行動に影響を与えるのではないか」と考えられるようになりました。しかし、女子大で理系を学ぶ女子が多いという事実だけでは、女子学生比率が高くなれば女子の理系比率が高まるのか、それとも偶然、共学よりも理系比率が高かったのか、はたまた別の要因が影響しているのかは分かりません。

この関係を明らかにするために様々な研究が行われました。結果、女子大では共学大学よりも文系から理系に転身する女子学生の割合が高かったこと、女子大から共学大学に切り替わったタイミングの前後で女子の理系比率が低下したことなどから、やはり女子学生比率が高い状況では女子の理系進学割合が高まるのではないかと考えられるようになりました。しかしこれでは、女子学生の比率が高くなると理系への進学が増える理由は説明できていません。なぜこのようなことが起こるのでしょうか?

女子学生が抱くジェンダーステレオタイプと女子校

結論の一つを先に述べると、男女別学に比べて男女共学の状況では、女性に対するジェンダーステレオタイプが強化され、女子が自由に学術的好奇心を探究することが阻害される、という現象が発生する場合があるからです。

読者の皆さんにも経験があるかもしれませんが、思春期は自己概念や自尊心に敏感になる時期で、社会的につくられた「男はこうするもの、女はこうするもの」という性別役割(ジェンダーステレオタイプ)を自己概念として規定してしまうことがあると同時に、それから逸脱することを不適切だと捉えがちになってしまいます。このジェンダーステレオタイプの一つに「男子は理系、女子は文系」が存在しているため、ここから逸脱する進学行動を不適切だと考える女子が出てきてしまいます(これは文系に進学したい男子にも当てはまります。正直に言うと私自身も高校時代に文系を選択した際や、大学院で国際教育協力を専攻することを決めた際に、若干の心理的な抵抗がありました)。

このため、金銭的なメリットを考慮しても、ジェンダーステレオタイプから逸脱する科目選択を不適切だと考える度合い(デメリット)が上回ってしまい、女子が文系科目を選びがちになってしまうと言われています。

第4回で紹介した「開発のための対話(C4D)」は、こういった慣習の壁・ジェンダーステレオタイプを取り壊すことで、心理的なデメリットを減らすという効果が期待されるものでした。同様の効果が女子校にも期待できます。男女別学の状況下では異性の存在が希薄なため、例えば「男子は理系、女子は文系」という相対的なジェンダーステレオタイプを自己概念として規定することが難しくなり、自由に学術的好奇心を探究できるようになると考えられています。

女子校と教員が持つジェンダーステレオタイプ

言うまでもないかもしれませんが、教育において教員が果たす役割はとても大きなものがあります。子供の学力を上げることに関して優秀な教員とそうでない教員が30人クラスを担当した場合、学力向上や進学率の改善などによる金銭的な価値は一クラス辺り約6600万円(60万ドル)にものぼると言われるほどです。

生徒だけでなく、教員の中にもジェンダーステレオタイプから自由になれていない人がいます。例えば、女子生徒に対する進路指導に際して、女の子は手に職をつけるべきだ・地元に残るべきだ、というバイアスを持ってしまっている教員は確かにいます。このようなジェンダーバイアスを教室内に持ち込んでしまい、理数系科目において男子を過大評価・女子を過小評価してしまう教員も存在します。また、これは教室内での男女の生徒の振舞いの違いが引き起こしている面もありますが、教室内でより男子に注目をしがちな教員も存在します。

女子教員の割合を増やすことでこの問題に取り組むこともできますが、女子校にも同様の効果を期待できるでしょう。女子校の教室内では過大評価の対象となる男子がいないため、女子の学力を相対的に過小評価できなくなることなどが考えられるためです。

女子校が持つ効果は普遍的と言えるか?

しかし、女子校が万能というわけではありません。

「別学か共学か」を分析した研究結果を概観すると、女子校が効果を持つというものと、効果を持たないというものが入り混じっています。理由の一つとして効果の計測の難しさも挙げられますが(平均的に別学の方が共学よりも富裕層・優秀な層が集まっている/優秀な教員が集まってきている、といった現象が反映されたに過ぎない、といったもの)、効果が文脈によるところが大きいという点も挙げられます。

別学が推進される理由の一つとして「男女で学習パターンが違うのだから、別学であればその違いに合わせた教育が出来るので効果が上がる」というものがしばしば言及されます。もしこれが主要因なのであれば、確かに女子校の効果は普遍的なものとなったのでしょうが、近年は「男女で学習パターンが違う」という前提がそもそも誤りなのではないかと言われるようにもなってきています。

このため、女子校の効果として期待できるものは、今回お話したジェンダーステレオタイプが主なものだと考えられるのですが、家庭や地域や世代によっても大きな差があるだけでなく、子供の成長度合い(年齢)によっても、ジェンダーステレオタイプに受ける影響の大きさが異なるため、女子校を推進したからと言って必ずしも日本の女子教育の問題が解消に向かうとは限らないと言えるでしょう。

さらに、共学でもみられる男子のグループと女子のグループで交流が頻繁でない傾向は、別学ではより拍車がかかるでしょう。すると、別学の卒業生は共学の卒業生と比べて、教育段階を終えてから結婚生活を上手くマネージできないなどの弊害があることも指摘されています。

これらの理由から、女子校に進学するか共学に進学するか悩んだときには、ジェンダーステレオタイプについて考えてみるとよいかもしれません。もし自分(ないしは子供)がジェンダーステレオタイプが強い環境下で育ち、かつその影響を強く受けていると感じるのであれば、女子校に進学することで新たな道が開ける可能性があります。

しかし、私が生まれ育ったような田舎の地域では、ジェンダーステレオタイプが強烈(例えば、お葬式や法事では台所に男性が立つことはほぼありません)であるものの、通える範囲に学校が一校しかないので、そもそも共学か別学かを選択する余地すらありませんでした。そのような地域に共学か別学かの選択肢を与えることが出来れば、女子校が持つ女子教育を推進する力が発揮されるのかもしれません。

参考文献

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