小栗旬の「労働組合」は、業界を変えることができるのか

【この記事のキーワード】

戦後、企業経営の目的が国家目的の達成から、企業の収益アップを通じた成長へとシフトしても、企業の組織体制は国家によって管理されていた当時のシステムを引きずっています。日本企業の多くが垂直的なピラミッド型の序列構造を持つのも、違法な長時間労働さえもいとわない「滅私奉公」のサービス残業がはびこるのも、正規構成員どうし「我慢しあう」「助け合う」ことが美徳であり、「勤労奉仕は国家に対する責務」であった時代の負の遺産なのです。

一方の欧米では、企業の「軍隊化」や構成員たる労働者の「正規構成員」化は日本ほどには進みませんでした。日本は短期間で近代化、工業化を成し遂げ、国民一人一人が滅私奉公で無理をすることで欧米に追い付くしかありませんでしたが、時間をかけて近代化を達成していた欧米では、一人一人が日本ほど無理をする必要が無かったからです。ある程度余力がある中で戦争をしていたので、日本のように国内の全企業、全国民が挙国一致で戦争するという体制にする必要がなかったのです。

日本では戦後、農業従事者や地方出身者が大挙して都市部に流入し、ブルーカラー労働者として製造業に従事するようになるという大規模な社会移動が起こりました。これによって、大多数の国民が、同じような企業で、同じような職業につき、同じような賃金で働くという状況がしばらく続きました。「一億総中流」社会が誕生したのです。

欧米ではこうした産業の変化による社会移動や階層意識の変遷も、日本よりも長い時間をかけて変化していきました。日本では「お父さんは地方の農家の息子だったが、1960年代前半に高卒で東京に出てきて製造業に就職。高卒で事務職をしていたお母さんに出会って結婚し、子ども3人に恵まれた。長男は高卒で大手自動車会社に就職。長女は短大卒業後に就職したが結婚を期に退職。次男は大卒でバブル末期に銀行に就職し、同僚の女性と結婚」というのも珍しい話ではありません。

日本では、父である1世代目で大きな社会移動が起こり、2世代目では同一家庭内にブルーカラーもホワイトカラーも混在しているという状況も珍しくはありませんが、欧米ではこうした大規模な社会移動も3世代以上かけて、ゆっくりと達成していきました。

一つの家庭内であれば、こうした階層の違いは「中流意識」のもと黙認されますが、3世代目、4世代目ともなれば、それぞれ全く違う階層に属する状況が固定化し、階層意識の分断も進みます。著しい経済成長が終わり、社会移動が見込まれなくなった社会では、3世代目がブルーカラーならば、4世代目もブルーカラーとなり、3世代目がホワイトカラーならば4世代目もホワイトカラーとなります。欧米社会で日本よりも明確な階層の分断が見られるのは、階層意識も日本よりも時間をかけて形成され、強固に踏み固められてきたからです。そして、日本もこの状況に近づいていますが、日本の労働組合はその変化にキャッチアップできていません。

日本の労働組合は、80年代中盤までの製造業における「ブルーカラーもホワイトカラーも関係なく、正社員を中心とした企業形態」が基本系です。90年代以降に急増し続けているサービス業やIT業界、非正規雇用の急増といった状況に対応できていないのです。

1 2 3

「小栗旬の「労働組合」は、業界を変えることができるのか」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。