ポルノ・ナショナリズム “二枚舌の国”日本でいま児童ポルノについて考えるべきこと

【この記事のキーワード】

ナショナリズムと児童ポルノ

 ここまできてようやく、私たちは現在の日本における児童ポルノをめぐる二枚舌について考えることができます。私が言いたいことは本当にシンプルです。それは、児童ポルノのない国をめざすと語りながら児童ポルノによるマーケティングを行うこの国の二枚舌を支えているのは、美しい国ニッポンというファンタジーに向けられたナショナリズムだということです。そして児童ポルノをめぐる多くの語りは、子どもへの性暴力自体について取り組むのではなく、児童ポルノをダシにしたナショナルなファンタジーへと回収される危険と常に隣り合わせにあります。

 例えば2015年に改正児童ポルノ法が施行された直後、産経新聞は「日本が世界から与えられた『児童ポルノ天国』という不名誉な称号を返上すべく、児童ポルノの“需要”を絶ち、子供たちの被害を食い止めるのが狙い」だと報じました。この報道が伝えるメッセージは、児童ポルノの防止は子どもたちの被害を食い止めるよりもまず「『児童ポルノ天国』という不名誉な称号を返上」して日本を世界からリスペクトされる国にすることが目的なのだということです。

 これと全く同じことはつい最近BBC3が報じた “Young Sex for Sale in Japan” という番組に対する反応でも起こっています。番組では疑似風俗的なJKカフェやイメージビデオと呼ばれる疑似AVを取り上げ、日本において若い性が商品化され続けていることを問題にしたようです。ようです、というのはこの番組がイギリス国内からしか観られないからで、筆者も番組を視聴することはできませんでした。そのためここで内容自体についてコメントすることを差し控えます。

 番組についての記事や実際に観た人の反応を見たうえでできる限り中立に言えば、日本社会についての番組制作者の誤解や偏見があったことは事実なようだし(例えば2014年の改正ポルノ法までは日本で児童ポルノは合法だったという伝え方など)、その一方で番組全体としては恣意的な偏向報道とは言い難いものだという意見も見られました(番組のトーンとしては一方的な批判というよりは日本の性商品文化へのとまどいが主だったことなど)。

 しかし、この番組を伝えるTogetterなどの日本語ウェブページには「反日的ねつ造」「国辱的フェイクニュース」といった見出しが踊りました。実際にどれだけ多くの人が番組を見たうえでこうした書き込みを行ったのかは定かではありませんが、先ほど書いたように番組自体は基本的にイギリス国内からしか見られないこと、Youtube等に転載された動画もすぐに削除され、また元番組の一部分だけを切り取る編集がなされたものであったことを考えると「国辱的なフェイクニュース」というまとめそれ自体が悪意を煽るフェイクニュースである可能性は高いように思われる、という意見もあります。いずれにせよ問題なのはBBC3の番組がフェイクニュースだったか否かということではなく、こうした書き込みを行う人たちにとって児童ポルノは単にナショナリズムを煽るためのダシにすぎなかったということです。

 児童ポルノに対してどんな立場をとるにせよ、現代の日本において児童ポルノが論じられるときその議論はナショナリズムの語りに落とし込まれる危険性と常に隣り合わせにあります。児童ポルノについて語られるとき、私たちはその裏に潜むナショナルなファンタジーへの誘惑に常に注意しなければいけません。児童ポルノが明らかな性暴力であって、そうした暴力から子ども達が守られるべきなのは当たり前のことです。けれどそれは子どもらが大人より弱い立場にある一個の人間だからで、決して「国の宝」だからなんかではないのです。
Lisbon22

1 2 3

「ポルノ・ナショナリズム “二枚舌の国”日本でいま児童ポルノについて考えるべきこと」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。