
Photo by Rikard Elofsson from Flickr
日本で「外国人」を描いたイラストには今も金髪碧眼なものが少なくない。外国人=白人では決してないが、「白人」として描いているならブロンド(金髪)は正しくもあり、同時に正しくないとも言える。
アメリカに来てみれば分かるが、街行く白人女性にはとにかくブロンドが多い。あの光景を見れば白人=ブロンドだと思い込んでしまうのも仕方ないのかもしれない。洋画や海外ドラマを観れば、さらに高確率でブロンドの女優が登場する。
しかし、一般女性も女優も、実はほとんどが髪の毛をブロンドに染めているのだ。
ひとくちに白人といっても出自はさまざま。スウェーデンやフィンランドなど北欧にはブロンドが多いが、アメリカ白人のうち北欧系はたった3%程度。全米で最も多いのはドイツ系で、彼らの中にもブロンドはいる。しかし、筆者が住むニューヨークではアイルランド系とイタリア系が多数を占め、その多くはブルネット(茶色)だ。しかも、生まれた時にプラチナ・ブロンドだった赤ちゃんも、多くは成長とともに髪の色がどんどん濃くなってブルネットになり、成人後も明るいブロンドのままの人はとても少ないのである。
つまり、プラチナ・ブロンドは稀少だからこそ善しとされ、皆がそれに憧れるのだ。ブロンドに憧れる親にとって最悪なのは、生まれた時はブロンドだった子供の髪がブロンドでなくなる過程を目撃しなければならないことだ。子供の物心がつかないうちは、母親のほうにこそ「自分はすでにブロンドではなく、子供もまたブロンドでなくなる」ことへの恐怖が芽生えてしまうようだ。
こうして実際にはほとんど存在しない幻のプラチナ・ブロンドが美の象徴と崇められ、男性にもウケ、もてはやされる。アメリカ白人にはヨーロッパ白人への根深いコンプレックスがあるのではないだろうか。果たして、アメリカ白人女性たちは今日も今日とてせっせと髪を染め続けるのである。
だからこそニューヨークにはヘアカラー専門のサロンがたくさんあるし、どのドラッグストアに行ってもヘアカラーの品揃えに驚かされる。試しに化粧品会社のロレアルを調べてみると、同社には4つのヘアカラー・ブランドがあり、メインの “Superior Preference” はブロンド/ブラウン/レッド/ブラックと4色のカテゴリーに分かれている。そして、ブロンドにはなんと17色もが揃っている。「ダーク・ブロンド」「アッシュ・ブロンド」「ナチュラル・ブロンド」「ゴールデン・ブロンド」……それぞれ微妙に色味や明るさが異なるのだが、ゴールデン・ブロンドとは、まさに金色の金髪。パッケージに写っているモデルの髪は、これでもかと言わんばかりに神々しく光り輝いているのである。