連載

小学生には過激だった、「愛ゆえの強引さは正当だ」と少女に教え込んだマンガ/種村有菜『神風怪盗ジャンヌ』

【この記事のキーワード】

明るく強いモテモテ美少女、だけど繊細で泣き虫という「全盛り」ヒロイン

 ヒロインは、16歳の女子高生、日下部まろん(くさかべ・まろん)。両親がそれぞれ海外で仕事をしているため、広いマンションで一人暮らしをしているが、ある日ちいさな“天使”の女の子・フィンがやって来て、「まろんはジャンヌ・ダルクの生まれ変わり。神様のために悪魔を回収して」と要請されたことから、毎夜“神風怪盗ジャンヌ”に変身しては美しい絵画を狙って街に繰り出している。この“悪魔”というのは美しい絵画に潜み、絵の持ち主を悪い人間に変貌させてしまう。その悪魔を回収して封印、そして神の力を取り戻す「チェックメイト!」を果たすことがジャンヌの目的だ。

 もう少し詳しく解説すると、まずこの世には、大昔から世界征服を企んでいる「魔王」がいる。魔王は人間界の美しい絵に悪魔を憑依させ、絵を見て「美しい」と感じた人間の心を蝕む。人間の美しい心は「神様の命の源」。もし魔王が人間の美しい心を蝕み続けると、いずれ神様は死に、人類は滅び、世界に誰もいなくなる。だから悪魔を回収しないとヤバい……というわけだが、それができるのはジャンヌ・ダルクの生まれ変わりで神の力を受け継いでいるまろんただ一人。歴史上の人物を引っ張り出してヒロインの前世にするなんて、驚いた。しかもまろん、ジャンヌ・ダルクよりさらにもっと昔は旧約聖書に登場するイヴだったというのだから、作品の設定、大胆過ぎる……。

 平成の世を生きる16歳女子児童の肩に人類の未来がかかっているなんて、戦中の学徒出陣並みに重苦しい任務だと思うが、怪盗ジャンヌに変身したまろんは次々と襲い掛かる困難をかわしながら、悪魔を回収、チェックメイトを果たしていく。その姿は勇敢で、颯爽としていて、気高くもあり、とにかくめちゃくちゃかっこいい。ちなみにジャンヌの衣装は、かの『美少女戦士セーラームーン』のようなブリブリ系ではなく、和装とアラビアンナイトをミックスさせたような感じ(ミニスカだけど)で、ジャンヌの芯の強さやストイックさが強調されている。

 まろんは女子高生としても、ものすごくイケている。美人で成績優秀で委員長、得意の新体操を披露すればめちゃくちゃ華麗で、観客はみんなメロメロになる。ちなみに稚空がまろんを高く抱き上げて「まろんは軽いな 羽根が生えてるみたいだ」と言うシーンもあるのだが、胸などは柔らかくて「抱き心地がいい」そうなのでスタイルもめちゃくちゃ良いらしい。女子から嫉妬されることもなく(到底かなわないから)憧れの的として崇められ、男子からはモテまくり。性格も高飛車な振る舞いなんてせず、明るくて公明正大で優しくて利他的。まさにキラキラ女子さん。しかしそれは学校にいる時の表向きのまろんである。また、ジャンヌに変身しているときのまろんも、強くてカッコよくて美しくて警官さえ虜にする魅力的な女性。でも“本当のまろん”は、弱くて壊れそうに脆くて繊細で……とくるから、だからヒロインとして「完璧」なのである。

 というのも、実はまろん、親の愛に飢えていることが原因で、メンヘラ&アダルトチルドレンが進行しつつある。まろんが10歳の頃、不仲だった両親は仕事を理由にそれぞれ海外赴任し、まろんのことはマンション隣室に住む幼なじみ家族に任せっきり、生活費は振り込んでも連絡はしてこない。幼なじみ家族に見守られながらも1人暮らししているまろんの心は、もう孤独、孤独、孤独でいっぱい。前回の『グッドモーニング・コール』(https://wezz-y.com/archives/42366)では、中学生男女が親元離れての2人暮らしを十二分に楽しんでいたが、まろんは自らの家庭環境を憂え、両親を恋しがって連絡を心待ちにしている。拒否されるのが怖過ぎて、自分からの連絡はできない。一般的に高校生なんて「親、うぜぇ」シーズンだが、まろんときたら両親恋しさに幼子のように頼りなく、眉をハの字にして少し垂れ目の大きな瞳をうるうる……この描写がまたとてつもなく可憐で、それはそれは……「守ってあげたくなる女の子」!!!

 美しくて、かっこよくて、頼りない。3つの魅力を絶妙なバランスで搭載されたまろんは少女漫画のヒロイン像としてまさに完璧だ。これ、なかなかすごいことである。才色兼備で周囲に憧れられる要素を山ほど持っていながら、実は孤独で、弱い面もあり、それを知ったヒーローが「絶対に俺が守る!」とお姫様抱っこ。見事な全盛りじゃないか。どれだけ美少女でもメンヘラが過ぎると「重い女」「悲劇のヒロイン」「キモい」なんてレッテルを貼られるものだが、まろんの場合、弱さを露見させる時以外はジャンヌとして活躍したり新体操で優勝したり、とにかく「美しくてかっこいい、華のある人物」であることが徹底して描かれており、読者の多くはまろんにドン引きすることなく、むしろまろんを「理想的なヒロイン」と捉え、憧れを募らせたのではないだろうか。

 不遇な家庭環境、弱さや淋しさも含めて、まろんというキャラクターは、ごくごくフツーの家庭で安穏と過ごす女児にとっては「羨ましさ」でしかない。作中まろんが親に葛藤を抱けば抱くほど、孤独を募らせれば募らせるほど、稚空は「ヒロインを寵愛する献身的な王子様」へと成長していく。『神風怪盗ジャンヌ』は、悲劇のヒロインになって王子様に守られたいというメンヘラちっくな願望を募らせる、罪深い作品でもある。

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