連載

小学生には過激だった、「愛ゆえの強引さは正当だ」と少女に教え込んだマンガ/種村有菜『神風怪盗ジャンヌ』

【この記事のキーワード】

ヒロインの反応こそが「エロい」

 そろそろエロ描写の話をしよう。天真爛漫に見えて深い孤独を抱えたまろんの心の殻をぶち破ってくれるかっこいい王子様、転校生の名古屋稚空(なごや・ちあき)。彼もまた、16歳でありながらまろんの隣室(2LDK以上あるはず……)にて1人暮らしをはじめるのだが、実父が大病院の院長で、妻(=稚空の実母)を亡くしてから後妻をとっかえひっかえしていることに嫌気がさして家出をした少年だ。見た目はもちろん、クラス中の女子が群がるほどカッコイイ。

 稚空はジャンヌと同じように悪魔の回収を行っている怪盗シンドバッドの正体で、当初はジャンヌの悪魔の回収を阻む“ライバル”“邪魔者”的な面もあったのだが、かといって正真正銘の“敵”というわけでもなく、むしろここぞという時にはジャンヌを助けてもくれる。それは昼間、“まろん”と“稚空”でいる時も同様で、稚空はまろんの抱える孤独にすぐさま気づき、頑張り過ぎるまろんに助け船を出すこともしばしば。まろんは愛ってよくわからないし、シンドバッドは敵なはずだし、と稚空をすぐには信じることができなかったが、互いの事情や内面に触れたり、助け合ったりするうちに2人は惹かれ合っていく。その接近に伴って『ジャンヌ』紙面では、2人のラブ&エロ描写が幾度となく登場することになる。

 エロ兆候は物語スタート時から表出しており、着替え途中だったまろんがうっかり上半身下着姿(谷間あり)のままベランダに出て稚空と会話したり(第1話)、まろんが同級生の水無月大和に壁ドンされて強引にキスされそうになり(第2話)、シンドバッドの稚空がジャンヌのまろんに強引にキスしてどうやら舌が入ってるだろうと思わせる描写(第4話)など、毎回ちょいちょいエロい。まろんはいわゆる“襲われ役”で、心臓病を患う中学生・高土屋全(たかづちや・ぜん)が臨終間際に不意打ちキスするとか(第16話)、悪魔騎士のノインがまろんを押し倒しギシギシ鳴るソファでレイプ未遂(第17~第18話)なんて描写もある。全体的に「男子が女子(まろん)を強引に……」が多い。ただそれだけならエロだと断言もできないが、何がエロいって、<まろんの反応がエロい>のである。

 稚空に心惹かれているまろんは、強引に抱きすくめられたりキスされたり胸を触られたりすると「やんやんっ」しながらも受け入れる。だって稚空がそういうことをするのは、まろんのことが好きすぎて・まろんが可愛すぎて、我慢できなくなってしまうから。彼の強引さや欲望の源は“性欲”とか“支配欲”とか“征服欲”で・は・な・く・て、「まろんのことが可愛くて好きでたまらないから、まろんに触りたくてたまらなくなっちゃう!!!」という言い訳が毎回絶対に用意されている。愛情の表出としての性描写なのだ。というかそれなら、前述の全くんやノインや水無月くんもそうで、全員「まろん大好き」だから彼女と密着したがっている。

 もちろんそんなの『ジャンヌ』に限ったことではなく、女児向けマンガならもっと過激なエロ描写のある雑誌でも同様だけれど、「愛しているからセックスしたい」という理屈がどの作品にも通底している。そうした作品群に触れて育つ女性たちが、「強引さは愛情の裏返し(好きな女児にちょっかい出す男児、の延長みたいな感じで)」「これが男と女がいちゃつく時の理想(あるいは模範)」と捉えてしまうことはあるだろうし、そういう潜在意識を持ったまま性知識を持って恋愛してセックスして結婚する女性も少なくないように思う。実際にはセックスには愛由来以外のバリエーションも様々あるのだが、「セックス=愛しているから」という解釈のみ採択してしまうと、「浮気許すまじ」思考に偏るだろうことも考えられる。そりゃあ女児向けのマンガで「愛由来ではないセックス」なんて絶対に描けないだろうけれど……。

 こんなことを書きつつ、アラサーの私は『ジャンヌ』を読み返してキュンとなっていた。第19話では、遊園地の観覧車内でまろんのキスマーク(ノインによるもの)を見てカッとなった稚空がまろんにキスを迫るも、まろんは拒否。まろんが「なんで稚空すぐキスしようとするの?」と聞けば、稚空は「お前のことかわいいと思うからしたいんだ しょうがないだろ」と答える。これは、正直、同じこと言われたいと思った。「かわいいと思うからしたい」って……絶妙過ぎる。

 第22話では、セックスはなしだけどまろんと稚空が同じベッドで目を覚まし、学校で調子を崩したまろんを稚空が抱きかかえ保健室へ運び、まろんは「いやっ」とか言いながらも、稚空の強引なキス&「誰かに優しくしてほしいときに 一番に俺を頼って」にうるうる、からの「世界中の人に嫌われてる気がしてこわいの…こわいのぉっ…」。メンヘラ放出しまくって王子様に求められるヒロインまろんに羨ましさを覚えてしまった。これだから少女マンガはやめられない。

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