小学生には過激だった、「愛ゆえの強引さは正当だ」と少女に教え込んだマンガ/種村有菜『神風怪盗ジャンヌ』

連載 2017.04.05 17:15

 『ジャンヌ』以前に、矢沢あい『ご近所物語』(1995~97年)が、主人公カップルがセックスを済ませたことを明確に示す場面を描いてはいたが、『ジャンヌ』は最終話前話という超クライマックス(第29話)にそのシーンを持ってきた。初体験の場所はなんと、天界である。神様が見てる!!!

 まろんが「魔王」との戦い(果し合いのような形式)を控えた前夜、まろんと稚空は、天界の王宮のような豪奢なしつらえのベッドルームに二人で寝る。このとき、まろんが決戦に挑むことへの不安を吐露する稚空に、まろんは「私にはもう こわいものなんてない あるとしたらあなたに嫌われることだけ…」「すき… 稚空が…すき…すきなの…」と号泣して想いを告げ、感極まった稚空はまろんを押し倒す。上半身裸(に見える)まろんと稚空は微妙に汗ばみ、頬を紅潮させ、そして深いキス。翌朝、決戦直前のジャンヌのモノローグに「神様以外の人を愛しても 心が気高さと誇りを忘れなければ 女の子は誰しも『純潔』なままでいられるものなのね」とある。これは印象深い言葉だと思う。セックスは汚いことではないんだ、とはっきり肯定している。

セックスの肯定と「守られたい願望」の覚醒

 最後にもう一度、まろんと稚空の関係性が私たちに与えた影響について考えてみよう。可憐で健気な美少女だけれど、深い孤独に打ちひしがれているため、とっても重い。しかし彼女は本当は、つくられるべくしてつくられたメンヘラ。魔王はイヴの魂の生まれ変わりたる日下部まろんが、心に傷を負い脆弱な人間に育つよう仕組み、両親を操ってわざと海外放浪させていたのだ。魔王のくせに、やることが丁寧で陰湿である。

 魔王の企みによって何年もかけて醸成されたまろんの弱い心はしかし、持ち前の強さと、彼女を守ろうと奮闘する稚空や親友によって克服される。全体的にセカイ系な世界観の広がる『ジャンヌ』だが、実はここが最大のファンタジー要素だと思う。親友は心からまろんを信じているし、稚空は決してまろんを重荷に感じたりしない。稚空は理想的な都合のよい男、いや都合のよい王子様だ。

 ヒロインがどのような状態になっても(どう転んでも可愛いのだが)、変わらぬ愛を注ぐ王子。でも恋愛って実際はそういうものではない。こういう関係性が描かれることって、女性に「守られたい願望」を植え付けてしまう(あるいは呼び覚ましてしまう)のではないか? と、そんなふうに考えてしまうのは良くないだろうか。また前述したように『ジャンヌ』における「好きだし可愛いと思うからセックスしたい」という論理展開での性描写によって、「愛されセックスとはこういうもの」「かわいいと思って“もらえれば”、押し倒して“もらえる”」と捉えてしまう可能性にも留意したい。セックスも恋愛も、そんな一面的なものではないからだ。

 前世どころか天地創造まで遡る壮大な世界観およびストーリーも、恋愛も友情も主人公の成長も、脇役である天使たちの動向も、詰め込めるだけ詰め込んだラーメン次郎的な盛りだくさんマンガ『ジャンヌ』。実に濃い少女漫画といえる。女同士の不器用な友情、家族の問題、天使たちの反乱、堕天使の裏切り、アダムとイヴ、ジャンヌ・ダルク、人類滅亡の危機などなど。「魔王」の正体が、神様の「さみしい心」が実体化したものだったという設定、最終話はジャンヌとの対決を経て、魔王に善が芽生える(悪者にも救いを与える、『りぼん』らしい終わり方だ)という徹底した性善説が貫かれている。だからこそ多少のエロ描写はあれども、夢と希望を与える少女マンガ誌「りぼん」で何度も巻頭カラーを飾る人気連載たりえたのだろう。ありとあらゆる少女の憧れ要素を濃縮還元して散りばめた、実に少女マンガらしい一作といえる。

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