近年、日本では貧困問題がメディアで取り上げられることが増えてきました。数ある貧困問題の中でも女子教育の問題と強い関連があるものが、シングルマザーの貧困と、その貧困の連鎖です。今回は、なぜシングルマザーの貧困が貧困の連鎖を生み出してしまうのか、そしてそれがなぜこれまで日本が女子教育を軽視してきた産物なのか話をしていきたいと思います。
ひとり親世帯と婚姻世帯の子供の教育格差
ひとり親世帯の貧困がその子供の貧困へと連鎖していく原因の一つは、子供の教育水準が低い所で留まりがちという点です。
平成27年4月20日厚生労働省「ひとり親家庭等の現状について」によると、全世帯の大学進学率が53.7%あるのに対して、ひとり親世帯はわずか23.9%と、半分以下に留まっています。第二回の記事でも紹介したように、女性が大学に行くコストは約1300万円ですが、大卒女性と高卒女性の生涯賃金の差は約6300万円と、大学進学のコストよりもメリットのほうが大幅に上回っています。
ふたつの数字だけみても、教育機会を通じてひとり親世帯の貧困が子供に連鎖しやすいということが分かるかと思いますが、事態はもっと深刻なものになっています。それは、ひとり親世帯の子供の教育水準(学歴・教育年数)が低くなりがちなだけでなく、そもそも学力が低くなってしまっているという事実です。
近年の教育経済学分野の研究では、学歴などの単純な教育水準よりも学力の方が、所得向上や貧困削減にとっては重要であることが明らかになってきています。これは考えてみれば当然で、学校に行っても何も学んでいなければ全く意味がないですし、リケジョを取り上げた記事でも言及したように、その後の所得に影響を与えるのも、何をどれだけ学んだかの方が重要であることを示唆しています。
ひとり親世帯の子供たちがどれだけ学んでいるかをみるために、2012年に実施された国際学力調査の結果を見てみましょう。
上の図は、数学・科学・読解でそれぞれひとり親世帯の子供と婚姻世帯の子供でどれぐらい学力差があるのかを示しています。日本は数学で下から三番目、科学で下から二番目、読解で最下位と、先進国の中でも最もひとり親世帯の子供と婚姻世帯の子供の間の学力差が大きな国の一つとなっています。この学力差が、進学できる大学など様々な経路を通じて将来の所得格差となり、シングルマザー世帯の貧困の連鎖の一因となります。
この国際学力調査は15歳を対象としたものです。つまり15歳の時点で既にこれだけの学力差が存在してしまっており、ひとり親世帯の貧困の連鎖を防ぐためには、大学に進学するコストである1300万円をローンや奨学金の形で支援する(教育を受けるための流動性制約を取り除く) だけでは不十分で、それ以前の教育段階から教育支援が必要であることも意味します。
このような現状を受けて、近年ひとり親世帯の子供の学習支援などがNPOなどによって行われるようになってきました。こうした活動は今現在ひとり親世帯で暮らす子供のために非常に重要なもの(特に、子供を宿した時点でシングルマザーとなっている世帯に対して、お腹に子供が宿ってからの1000日間を集中的に支援する必要が非常に高いです)ですが、同時に根本的な原因にも取り組む必要があります。それが、女子教育の軽視です。
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