ミシェル・オバマが見せた「ナチュラル・ヘア」の衝撃 名前も言葉も髪型も白人社会化を迫られた歴史

文=堂本かおる
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ミシェルの髪の秘密

 ストレートヘアを多用するのは一般の黒人女性も同様だ。先に挙げたヘアケアグッズ専門店がひとつの街のメインストリートに何軒もあるのは、多くの女性がヘアエクステンションやウィッグ、またはストレートパーマ剤を必要としているからだ。

 ミシェル・オバマもファーストレディ時代は様々なヘアスタイルを披露して全米はおろか世界中を楽しませてくれたが、ウィッグどころかヘアエクステンションもほとんど使わない地毛だった。しかもリサクサーと呼ばれる黒人用のストレートパーマ液は使わず、ブロー(ドライヤーで乾かしながらブラシでスタイリング)のみだった。

 ファーストレディという立場上、ビヨンセやリアーナに比べると当然ながら控え目なスタイルで、肩にかかる程度の長さのことが多かった。直毛の女性にとっては何気ないスタイルだが、黒人の縮れた髪に施すには非常なテクニックを要する。ミシェルの髪を手掛けているヘアスタイリスト、ジョニー・ライトが大きく注目され、黒人女性対象の雑誌やウェブサイトで何度もインタビューされているのは、それが理由だ。ライトはファーストレディのヘアスタイルについて、ミシェル自身の魅力について、そして黒人女性がミシェルのようなヘアスタイルを作るための実践的なアドバイスを語っている。

 今回の「ナチュラル・ヘア」騒動は驚くほど多くのメディアが取り上げており、あるメディアにインタビューされたライトは、ミシェルが休暇に出掛ける時にブローしたので、写真は休暇から戻ってきた時のものではないかとコメントしている。

ミシェル・オバマの髪型の変遷(Michelle Obama Is Rocking Her Natural Hair And The Internet Can’t Even) 

黒人の髪と、アメリカの歴史

 黒人女性がストレートヘアにするのはファッションだけが理由ではない。そこにはアメリカの歴史と社会によって作られた「美の概念」が潜んでいる。「黒人の縮れた毛は美しくない」とされてきたのだ。

 昔、奴隷としてアフリカから連れてこられた黒人たちは着衣から言葉まで、すべてにおいてアメリカナイズを強要された。アフリカ名を乗ることは許されず、奴隷主によって一方的にジョン、メアリーなど英語名を与えられた。アフリカの言葉は禁じられ、英語で話すことを強要された。ただし教養を与えることを避けるため、読み書きは厳禁された。着るものも祖末ではあったが、当時のアメリカのものを与えられた。黒人たちはサバイバルのためにアメリカナイズをせざるを得なかった。問題となったのは「髪」だった。縮れた毛質で白人の「美しい」ヘアスタイルを模倣するのは至難の技だった。以後、長年にわたって少しずつテクニックや用具が開発され続け、今では手間・時間・費用を惜しまなければどんなヘアスタイルも可能になった。

 一方、白人社会は自分たちが作り上げた「概念」「常識」をどの人種にも当てはめた。女性の社会進出も当然、白人のほうが早く進み、フォーマルな職場では女性もスーツもしくはブラウスにスカートやパンツを合わせ、パンプスを履く。ヘアスタイルも無難なものが好まれる。セミロングのダウンスタイルやポニーテールがその代表だ。それをそのまま黒人にも求めるため、黒人女性たちはウィッグ、ヘアエクステンション、ストレートパーマのいずれかによって白人女性に近いスタイルにしなければならない。黒人が昔から育んできたヘアスタイル――長短さまざまなスタイルのアフロヘア、ブレイズ、コーンロウ、ドレッドロックス、ツイストなど――はタブーとされた。ヘアスタイルが理由で解雇され、黒人女性が訴訟を起こすこともあった。

 髪の質にかかわらず、長い髪はまとめなければ日常生活で支障が出る。直毛の場合はうつむくと髪が垂れる、戸外で風があると顔にまとわりつくなどはアジア系にも共通する。ポニーテールなど髪をまとめるヘアスタイルが存在する理由だ。しかし黒人の髪質では後れ毛が出るため、ひとつに括るポニーテールやアップスタイルは難しい。黒人の幼い女の子がたくさんの数に編み分けるのはそれが理由だ。

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