
『LGBTを読みとく: クィア・スタディーズ入門』(ちくま新書)
こんにちは。今回はいつもと少し趣向を変えて、本連載初のインタビュー記事を掲載したいと思います。先月出たばかりのちくま新書『LGBTを読みとく』を題材に、著者で私の大学院時代からの友人である早稲田大学文学学術院専任講師の森山至貴さんにインタビューをしました。主に私と、本連載担当編集者が森山さんに質問をし、答えていただく形になっています。本書は非常にわかりやすい入門書なのでとくに解説がなくても読めると思いますが、著者にじっくりお話を聞ける機会はなかなかないので、既に読んだ方も、まだ読んでいない方も、どうぞご覧下さい。フィクションではないので、ネタバレはありません。
『LGBTを読みとく』を読みとく
北村 学生にいきなりクィア・スタディーズの話をしてもわかってもらえないことがほとんどです。ですから『LGBTを読みとく クィア・スタディーズ入門』が出て本当によかったと思いました。いろんなトピックをカバーしていますし、クィア・スタディーズを紹介するはじめの一冊としてとても適していると思います。
森山 学生に「森山さん、クィア・スタディーズが専門なんですよね。何を読んだらいいですか?」って言われた時に、私自身、すすめられる最近の本があまりなくて、「ないなら自分で書かなきゃいけないんだな」と思っていたところもあったので、そういうふうに言っていただけると嬉しいです。
クィア・スタディーズの専門家は日本にもたくさんいて、英語圏も入れると文献は本当にたくさんあります。ただ、クィア・スタディーズを冠した私の授業を履修している学生にも、そもそもクィア・スタディーズの内容以前に、セクシュアルマイノリティについて全然知らない人が多いんです。まずはセクシュアルマイノリティについて、続いてクィア・スタディーズについても基本的なことが押さえられる本が欲しいと思っていました。この本はまさにその二枚の看板を掲げ、前半は準備編としてセクシュアルマイノリティについて、さらにクィア・スタディーズの基本的な発想や用語について後半で書くという構造にしました。
北村 LGBTという言葉は最近、日本で広く使われるようになっていますが、必ずしも正確に使われているとは言えないかと思います。たとえばトランスの方たちだけの話だったり、ゲイの方たちだけの話だったりするのに「LGBT」と言ってしまうことが見受けられます。「LGBT」という言葉が含む問題性と、なぜこの言葉をタイトルに選んだのか教えてください。
森山 本の中にも書いたように、LGBTはセクシュアルマイノリティの全てではないのに、そのことが忘れられて使われているし、LGBTそれぞれの間の差異についてもあまり考えられていません。たとえば、マーケティングやビジネスの分野ではLGBTの間の格差などを考えずにいろいろな人をひとまとめに指す用語になってしまっているところがあります。そういうわけで、LGBTは取り扱い要注意の単語であることを読者の方にわかってほしいなと思っていました。
タイトルの話に戻りますが、この『LGBTを読みとく』というタイトルは二種類に解釈できて、しかもその2つの解釈が私の本を読むことで読者の方にやってほしいことをそのまま表しているんです。ひとつは、セクシュアルマイノリティについて何も知らない人に対して、LとかGとかBとかTが何を指していて、それぞれがどういう社会的な枠組みのもとに成り立ってきたのかとか、それぞれの人たちがどういう社会的な戦いをしてきたかとかについてしっかり理解する=「読みとく」ということです。それぞれがどういうものなのか、そしてLGBTがセクシュアルマイノリティの全てではない、ということをわかってほしかったんですね。もうひとつの意味は、今の「LGBT」現象を批判的に解釈する=「読みとく」ということです。とりあえずLGBTって言っておけばいいとか、この言葉を使うと何かものが売れるとか、そういう現象そのものに対する批判的視点を獲得してほしいという狙いがありました。
つまり、『LGBTを読みとく』は、LGBTと言われているものの中身と、またみんながLGBTと言っている現象双方を理解し解釈するというダブルミーニングになっているんです。
北村 『LGBTを読みとく』には、LGBTとはどういうことを指すのか読みとく、というのと、現在起きているカッコつきの「LGBT」現象を読みとく、という2つの意味があるわけですね。とてもクィア・スタディーズっぽいタイトルの付け方だし、どちらも重要なことだと思います。