「白は純粋」~ニベアの広告が「人種差別」と批判されたワケ。

文=堂本かおる
【この記事のキーワード】

White = 白人 = 優位性

 前述したように “white” は白人を指すことから「白」にポジティブな意味を持たせると、文脈や表現方法によっては白人の優位性を示すことになる。今回のニベアの商品はデオドラントであり、肌を白くするための美白クリームではない。しかし人物モデルに「白は純粋」と書いたため、「白人は純粋」と解釈された。

 この現象が起こる理由は、今や多くの国が多人種・多民族社会であり、しかしながら全ての人種・民族が社会的に平等な立場にはなく、白人、もしくは肌の色が白い者が優位であることが多いからだ。いまさら取り返しようはないが、人種の呼称を「白人」「黒人」「黄色人種」など肌の色に基づくものにしてしまったことにも一因があるだろう。

 白人と黒人が混在し、人種問題が深刻なことで知られるアメリカだが、今回の広告が出された中東も肌の色には非常にバラエティがある。中東人の肌の色は日本語では「浅黒い」、英語では “olive” と表現されるものの、実際には白人と同じように白い人から、かなりダークな人まで幅がある。しかし美しいとされるのは白い肌。ちなみに日本人にしてはやや地黒な筆者の肌の色は、アメリカでは「オリーブ」と呼ばれることがある。インドも同じく肌の色に相当な幅があり、ここでも美しいとされるのは色白。ニューヨークにもインド人街があるが、小間物屋に行くと色白なインド人モデルがパッケージに印刷された美白クリームが売られている。

 長い歴史の中でさまざまな人種が混じり、結果的に肌の色が多様になった国々に比べると、日本人の肌の色の幅はかなり狭い。特にアメリカは人種混合が進んでいるため、コスメのロレアル社のファンデーションは33色を揃えている。明暗だけでなく、色味も人種によって異なるためだ。対して日本のコスメ会社のファンデーションは5~7色程度だ。その狭い肌の色の違いの中でも、やはり色白が善しとされ、美白化粧品が盛んに売られているのはご存知のとおりだろう。

天使は白い。悪魔は黒い。

 日本でも昔から「色の白いは七難隠す」と言われる。「潔白」「清白」「明白」など白を含む熟語にはポジティブな意味を持つものがあり、逆に「黒幕」「黒星」「腹黒い」など、黒を含む言葉にはネガティブなものがある。

 英語にも同様に “white lie”(相手を傷付けないための嘘)、”great white hope”(何かを成し遂げる可能性のある人、もの)といった白を含むポジティブな言葉、”black list”(ブラックリスト)、”black mail”(脅迫状)、”Black Monday”(経済破綻した日)など黒を含むネガティブな言葉が散見される。

 卵黄を使わず、白く焼き上げたケーキを “Angel Food Cake” と呼ぶ。「天使の食べ物」という意味だ。濃厚なチョコレートケーキは “Devil’s Food Cake” 「悪魔の食べ物」と呼ばれる。

 天使も悪魔も今では様々な場面でキャラクターとして使われるが、善良さを表す天使の肌は白く、邪悪な悪魔は黒く描かれる。実はどちらもキリスト教に基づくものだ。ニューヨークのロッカフェラーセンターの巨大なクリスマスツリーは有名だが、周辺には電飾を使った天使の飾りも施される。ある年、筆者と共にツリー見学に来た黒人男性が白い天使の飾りを見て、「エンジェルはなぜ常に “white”(白人)なんだ」とつぶやいていた。

 私たち、もしくは社会一般は「天使=白」を疑問を抱くことなく受け入れているが、肌の色によって差別される側は納得していないのだ。特にキリスト教徒であればなおさらだろう。

 中東の場合はイスラム教徒が多く、かつ白人は少ない。しかし先に書いたように肌の色の濃淡に大きな差があるからこそ、white を美しいとすることにより、相対的にオリーブ色の肌は美しくないということになる。

1 2 3

「「白は純粋」~ニベアの広告が「人種差別」と批判されたワケ。」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。