
利重さんと枡野さん
俳優・映画監督・エッセイストの利重剛さんと、歌人・作家の枡野浩一さんの連続対談をお送りします。
利重剛さんは19歳のとき、映画『近頃なぜかチャールストン』で主演かつ共同脚本として鮮烈なデビューを果たし、以後、俳優・監督・脚本家としてご活躍を続けられています。近年ではTBSドラマ『半沢直樹』やNHK朝の連続テレビ小説『とと姉ちゃん』などの作品でご存知の方も多いでしょう。
そんな利重さんはエッセイストとしても3冊の単著があります。利重さんのエッセイの大ファンであるのが、枡野浩一さん。利重さんのデビューエッセイ『街の声を聴きに』(角川書店)は枡野さんにとって「墓場まで持っていく本」であるといいます。
そして今回、それぞれの最新著作――利重さんが『ブロッコリーが好きだ。』を、枡野さんが『愛のことはもう仕方ない』を持ち合って、対談が実現しました。
実は枡野さんは大学生の頃より利重さんの存在を意識しており、自分の映画エッセイ集に利重監督作品評を書き、それを利重さんに贈るなどしていました。その御礼として利重さんはご自身の映画上映に枡野さんを招待するなど交流はあったものの、実際にお会いするのは今回が初めて。この対談はある意味、「30年来の初邂逅対談」とも言えるわけなのでした。
「ふたりはどこか似てるんですね」とお互い認めるように、どこか背格好も雰囲気も似ているように見えます。しかし、確実に違う面を持つ“似ているようで似ていないようで似ているふたりの男性”が、少年からオトコになり、さらに父となっていく“人生”をまるでたどるような「連続対談」――ご賞味ください。
「僕と枡野さんは似たところがあるんですねえ」 (利重)
枡野 今回は利重剛さんをお招きしています。歌人の枡野浩一と申します。よろしくお願いいたします。
利重 よろしくお願いします。
枡野 私がこの本(『愛のことはもう仕方ない』)を書いてから、たくさんの方と対談させていただいていて、今回が第6弾になるのかな。それで、今日は利重さんとははじめまして、になるのかな……
利重 そうですね、はじめましてですね。
枡野 はじめまして(笑)。
利重 はじめまして(笑)。
枡野 この、いま公開対談をさせていただいている書店(東京・高円寺・文禄堂)の店長さんが、私の本を気に入ってくださって、対談相手として利重さんに声をかけてくださったということだったんですけど、その店長さん、遠くへ異動になってしまって……。
利重 ははは。でもそんなに悲しいことではないですよね、田町のほうへ移られたそうで。
枡野 今日はその店長さんも観にきてくださっているんですけれども。そんな経緯でこの対談は立ち上がりました。
利重 はい。
枡野 僕は利重さんのすごい昔からのファンで。僕、映画についての本を一冊だけ出してるんですよ。映画について短歌を書くという……
利重 『もう頬づえをついてもいいですか?』という【注】……
枡野 はい。『もう頬づえはつかない』っていう映画【注】のパロディなんですけどね。その本で利重さんの映画のことをふたつ取り上げていて。
利重 そうですよね、2作品書いていただいて。
枡野 本では26作品……アルファベット順に26本しか映画を紹介していないのに、そのうちのふたつが利重さんの作品なんです。
利重 ほほほ(笑)
枡野 ですが、けっこう失礼なことを書いていて。そもそも、自分が利重さんファンだというと、みんなが嫌な顔をすることがあったりしたんで……
利重 くくくく……(笑)
枡野 <この(利重監督の)映画を好きな自分はちょっと駄目なんじゃないか>とか……
利重 あはははは(笑)
枡野 そうしたら、それを読まれた利重さんが、僕に映画のチケットをくださったという。
利重 はい。
枡野 そういうご縁で。でもその(映画上映の)ときもお目にはかかっていなくて。
利重 そうなんですよね。ずっと気にしてたんですけど、会える機会が全然なくて。
枡野 僕は一方的に存在を知っていて……。昔々、『PFF』(ぴあフィルムフェスティバル)【注】っていう映画のコンテストがあって、一般人が審査をしていいってときがあったんですね。そのときに僕、一般審査員として普通にお客さんとして観て、自分がいいなぁと思った作品があったんですよ。誰もがそれをいいと思うと思ってたら全然票が入らなくて、利重さんだけが褒めていたということがありました。
利重 ふふふふ。
枡野 なんか、野球が出てくる映画で、キャッチャーの男の子が「野球やりてえなぁ」って言って、キャッチャーミットを構えるポーズをとるんですよ。普通、野球やりたいって言ってキャッチャーのポーズしないじゃないですか。利重さんはそこに着目されてて(笑)。僕もその作品がちょっと好きになっちゃったんですよね。
利重 あ~、じゃあやっぱり、枡野さんと僕は似たところがあるんですねえ。
枡野 そのときから何か不思議な印象の方だなぁと。いつも手をぶらぶらされてるなぁとか。
利重 そうですね、いつも僕、歩くとき、手をぶらっぶらぶらっぶらさせてますね。
枡野 なんか、ずっとそういう感じで、一方的には利重さんのことを見てきたんですよ。そして(利重さんが書かれる)エッセイがすごく好きで。
利重 ありがとうございます。
枡野 映画も好きなんですけども。最初のエッセイ集が本当に好きで。
利重 『街の声を聴きに』という……
枡野 (自分で経営する「枡野書店」の中の)“墓場に持っていく本コーナー”に置いてあるくらい好きなんですね。僕の本(『愛のことはもう仕方ない』)に、結婚する直前にある女性クリエイターとデートしたっていうシーンが出てくるんですけど。その女性クリエイターとは気が合ったんだけど、結局何もしなかった、手もつながなかったっていう……。その女性クリエイターも利重さんのエッセイが好きで、初対面のときにそのことですごく盛り上がったんですね。いま思えば、そういう人と結婚していたほうが幸せだったかもしれない……。
利重 そう……かもしれないですね。
会場 (笑)
枡野 さっき楽屋でね、(利重剛監督の映画)『ザジ ZAZIE』【注】が好きな人同士で結婚した人がいるって話されていて……
利重 そうなんですよね、やっぱりだから、自分では「特殊」と言いたくないんですが、好きな人は好きだっていう作品を書いてしまったり、作ってしまうんじゃないのかなと思うんです、僕は。だから、なんとなくこの共通するアンテナといいますか何かがあって寄りあうというか……。枡野さんはほら、エッセイストの上原隆さん、好きでしょ?
枡野 ああ、上原隆さん【注】。はい。
利重 僕も大好きなんです。でも好きな人ってあんまりいないじゃないですか?
枡野 そうですね。僕、上原さんの文庫解説を書いたことあるんです。
利重 そうなんですかあ。かなり僕、好きで。ああいう方が地味~にでも続けられて、3年に一冊、4年に一冊でもいいから書き続けてほしいなぁ~って思っていて。だから、僕のこと好きだったり、同じタイプの作品が好きな人には「これ、きっと気に入るから、読みな」ってあげたりとかするんですが。
枡野 はい。
利重 そういう、なんかね、ワイルドサイドを歩く……といいますか、フフフ(笑)、そっちの人間なんじゃないですかね。
枡野 そうですねえ。
利重 だから、そういう人間同士がつきあったほうが幸せになるのかなっていう気はします。
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