「あなたが好きだ」と言われるより、同じものを「好きだ」と言い合える関係のほうが/利重剛×枡野浩一【1】

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「利重さんはご自身のファンの方と仲良くなりますか?」(枡野)

枡野 僕、仕事が順調でちょっと豊かだったときに、(助手の)アルバイトを雇ったことがあって。保坂和志さん【注】という小説家のファンの男の子だったんです。その子とはすごく気が合ったんですね。でも僕のファンだっていう人とは気が合わないんですよ。
自分のファンじゃなく、自分も好きな保坂和志さんファンの人とだと、すごく仕事がはかどるんですね。

利重 うんうん、うんうん。

枡野 なんでしょうねえ、それは。

利重 でも、それはそうかもしれないですよ。一緒に「あれいいよね!」って言いあえる人だったらいいけど、「あなたのこと好きだ好きだ」って言う人なら、それはツラい気がしますね。

枡野 そうですねえ。利重さんは、ご自身のファンの方とは仲良くなるほうですか?

利重 仲良くは……なりますけど。でも考えてみたら、つきあったりは……してないですね。

枡野 なるほど。

利重 はい。

枡野 いまの奥さんも利重さんのファンだったというわけでは……?

利重 全っ然、関係ないですね。

枡野 そうですかあ。そこが聞きたかったんです。

会場 (笑)

利重 僕も別に彼女のバンド【注】のファンではなかったですし。たまたま一緒に仕事をしたときに、すごく気があったというか……、はい。

枡野 それが秘訣かもしれませんね。

利重 そうですね、ええ。

枡野 たとえば、作品のファンだったとすると、作品がもし合わなくなったときに喧嘩しそうですものね?

利重 しそうですねえ。

枡野 「前は好きだったのに! 新作はなんなの!?」みたいな。

利重 あ~……。「あいつは逃げた!」とかね、「あいつは裏切った!」とか。よく言われたりしますもんね、自分の作品を作っててもね。ただ一生懸命作っているだけなのにね。
だって、ずーっとそばにいる人に合わせては、作品は作り続けられないじゃないですか。

枡野 そうですよね。

利重 だから、一生懸命受け取ってくれる人は、次の作品のときには「プイッ!」ってなる可能性が高い。それはそれだけ真摯に求めてくれてるからなんでしょうけど、そのぶん反発も強いんでしょうね。

枡野 なるほど。そういうもんですよねえ。そう、だから、今日もお目にかかれるのは嬉しかったんですけれども、なんかね、そのへんの不安もあったりしました(笑)。

利重 そうですね、ずーっと長いことお目にかかったことなかったもんですから、僕も初対面ですごく嬉しいのと、同時に、来る道で、「仲良くなれんのかなぁ」っていうのはね……

枡野 ありますよね(笑)。僕、その(先ほど利重さんが好きだといわれた)上原隆さんとお目にかかったことがあるんです。文庫解説を書いた関係で。一回ご飯を食べたんですけど、それから妙に距離をとられていて……

利重 それは気のせいではなく?(笑)

枡野 たぶん。「思ってたのと違う」って編集の方と上原さんが顔を見合わせている印象がちょっとあって。そんなにわかりやすい見合わせじゃなかったんですけど。その後、葉書きはいただくんですけど、なんかちょっと距離をおかれてる感じがしちゃうんですよ。だから、しょうがないなぁ、自分はファンなんだけどなぁ……って思ってるんです。

利重 ほお~。あの、枡野さんの文章、なんか狙いがわかんないとき、ありますもんね。

枡野 そうなんです。

利重 すごく深く考えて、それに翻弄されてるのかなんなのか、思ったことをそのまま素直に書いてるのか、すごく計算してそこに至ってるのか、そこがわかんないから。そういう意味では、枡野さんって“得体が知れない”んですよね、会ってみないと。

枡野 はい、そう言われます。でも、素直に書いてるんですよ(笑)。

利重 フフフ(笑)、そうなんじゃないかなぁとは思ってます。

枡野 あんまり「こう思われたい」とかの計算で書いてるのではないんです。だけど普通の人が読むと、「こういう風に書くのはなにか裏があるのじゃないか」って思ってしまうみたいなんですよねえ。

利重 この枡野さんの本(『愛のことはもう仕方ない』)も、僕、そう思いましたよ。最後まで読むと……みなさん、最後まで読まれましたか? これ、最後まで読まないとダメなんですよ。俺、これ、最後まで読んでよかったあって思いましたもん! 途中で投げ捨てないでよかったあって! 途中でね、やっぱりイラッとするんですよ!

会場 (爆笑)

利重 すごいイラッとするんだけど(笑)。でも最後まで読んで、「ああ、そうだったのかあ……」となったときに、いい作品だなぁと思うと同時に「これ、計算してんのかなぁ?」と。そこがわかんないんですよね。それが枡野さんの特徴なんじゃないかと。

枡野 ありがとうございます。

利重 ある意味、誤解をわざと生んでるのかもしれないし。

枡野 それはでもですねえ、わざと誤解を生みたくてやってるわけじゃないんですよねえ。
あと、みんなも面白がって読んでくれると思ってるから、まさか途中で嫌になられるとは想像もしてないんですよ(笑)。

利重 ああ~、なるほどね。や、でも結構、俺、どんな本でも普通に最後まで読むほうですけど、これは途中イラッとしましたよ。

枡野 はい、それはもうみなさんから言われるので。もう、そうだったのかと。本を出してから知るんです。

利重 う~ん、そうなのかぁ。それはでも……、枡野さん、不思議な方ですよね。

枡野 そんな悪者ではないんですけども。

利重 それは、ええ、ええ。

枡野 なんか、すごく怖がられてしまうんです。加藤千恵さん【注】という僕の後輩にあたる歌人の人がいて、彼女がたくさんの作家の方と仲良しなんですよ。その作家の方たち、西加奈子さん【注】とか……

利重 いい作家さんですねえ。

枡野 あと村田沙耶香さん【注】とか。そういう作家さんたちが、どうやら僕を怖がってるみたいで。僕のツイッターを見て「怖い…」とか。会うと「全然怖くないですね」って言われるんですよ、西さんとか初対面なのに。そんなに怖い印象なのかって、いつもショックなんです。

利重 ああ~! それ、僕もよく言われます。

枡野 ほんとですか?

利重 うん。「思ったよりいい人なんですね」って。

枡野 なにが嫌な印象なんですかね?

利重 そうなんですよ。最初どう思ってたのかっていう。

枡野 エッセイとか、とてもいい感じのエピソードが書いてあるのに。

利重 ハハハ、お互いに褒めあってますけどね、一般的にはそうじゃないんですよ、ふたりのイメージはきっと。

枡野 や、でも、利重さんの最初のエッセイの話になっちゃいますけど、“ゆで卵を持ち歩いていたら職務質問にあった”エピソードとか……

利重 あれは実は生卵なんです。

枡野 あ、生卵か……。

利重 僕、高校生のときに一人暮らしさせてもらってたもんですから、仕送りを全部8ミリ映画を作るために使っちゃってたもんで、お金がいつもなかったんです。だから同級生の家でご飯食べさせてもらったり……。大体みんな成蹊高校に通っていて。

枡野 お金持ちの人がいく学校ですよね。

利重 そうそう。だから遊びにいくとすごくいいご飯も食べさせてくれるし、お土産もくれるんです。それでその日たまたま「生卵持ってく?」って言われて、「ありがとうございます!」ってポケットに両方1個ずつ生卵入れて、学生服で歩いてたら職質にあって、警官にポケットに手を突っ込まれて「これなんだあ!?」って。「た、卵だよぉ」「どうするつもりだったんだあ!?」「食うんだよバカヤロー!」とかいって……あの…捕まったっていう話ですね。

会場 (笑)

枡野 でも確かに両方のポッケに生卵って、普通は投げつけるのかなって思いますね。

利重 ただそれこそ枡野さんと同じように「いったいなにがあるというんだ、卵に!」って思うわけですよ、僕は。

枡野 実際に僕も同じようなことがあって。竹馬を持って歩いていたら警官に……

利重 「竹馬でなにをするつもりなんだ!?」と?

枡野 そう。だから、「竹馬が好きなんですよおッ!!」って(笑)。

利重 あははは。

 

【第1回の注釈】

■『もう頬づえをついてもいいですか?』
枡野浩一・著。≪無声映画を観るように読む 極私的映画コラム集。AからZのアルファベットで始まる26本の映画について、歌人・枡野浩一が短歌を詠み、語る。独自の視点と率直な語り口の映画コラムは、可笑しく切なく綴られ、ときに私小説にも近づく。シネマ文字ライター・渋谷展子により字幕化された短歌と、映画や短歌に想を得て写真家・八二一が切り取った風景とともに、スクリーンに映し出される一本の映画のように楽しめる一冊。≫(BOOKデータベースより)

■映画『もう頬づえはつかない』
1979年公開。ATG制作。監督/東陽一。主演/桃井かおり、共演/奥田瑛二、森本レオ、伊丹十三。原作は当時大学生だった見延典子が卒論として書いた小説。一人の女子大生が体験する愛や性を二人の男子学生の存在により描く。小説はベストセラーとなり、「もう頬づえはつかない」という題名が流行語にもなった。同名の映画主題歌の作詞は寺山修司。

PFF/ぴあフィルムフェスティバル
情報誌『ぴあ』が1977年より開催している映画祭。映画祭内でおこなわれる『PFFアワード』という自主映画コンクールの歴代入賞者には、石井聰亙(石井岳龍)・長崎俊一・森田芳光・犬童一心・手塚眞・山川直人・飯田譲治・黒沢清・松岡錠司・中島哲也・塩田明彦・園子温・成島出・橋口亮輔・平野勝之・塚本晋也・天願大介・矢口史靖・熊切和嘉・李相日・タナダユキ・三浦大輔……等々の錚々たる映画監督たちが並ぶ。利重剛は「笹平剛」名義での監督作品『教訓I』が1981年に入選している。

『ザジ ZAZIE』
利重剛が自身のオリジナル脚本をもとに(商業映画)監督デビューを飾った作品。音楽を担当したロックバンド“横道坊主”のボーカルである中村義人が、伝説のロックミュージシャンを好演した。伝説のパンクロッカー“ザジ”が五年ぶりに東京に戻ってきた。就職した会社を辞め、自分自身を見つめ直すため、彼はビデオカメラでありとあらゆるものを撮影し始める。やがてザジの周りには、想いを寄せるウェイトレスやOL、バンドを再結成しようと近づくかつてのバンド仲間、彼をカリスマ視する青年などが集まってきた。だがザジへの憧れが強くなりすぎた青年・砂田は、ビデオばかり撮り続けるザジに怒りを覚え、自らが仕掛けた事件にザジを巻き込むのだった…。(allcinema ONLINEより引用)

上原隆
コラムニスト。1949年生まれ。作品に、『友がみな我よりえらく見える日は』『喜びは悲しみのあとに』『1ミリでも変えられるものなら』『雨にぬれても』『胸の中にて鳴る音あり』『にじんだ星をかぞえて』『こころが折れそうになったとき』『こんな日もあるさ 23のコラム・ノンフィクション』などがある。枡野浩一が解説を担当したのは『1ミリでも変えられるものなら』を改題した新潮文庫『雨の日と月曜日は』。

保坂和志
作家。1956年生まれ。『プレーンソング』でデビュー。『この人の閾』で第113回芥川賞受賞を、『季節の記憶』で谷崎潤一郎賞・平林たい子文学賞をW受賞している。

彼女のバンド
PRINCESS PRINCESS(プリンセス プリンセス)。利重剛さんの奥様はキーボード担当の今野登茂子さん。

加藤千恵
1983年生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。高校生時代に歌人としての才能を枡野浩一に見出されて、処女短歌集『ハッピーアイスクリーム』でデビュー。短歌集としては異例のデビューとなる。その後は小説も手掛ける。作家の朝井リョウとともにラジオ番組『オールナイトニッポンZERO』パーソナリティも務めた。最新の著作は『アンバランス』 『ラジオ ラジオ ラジオ』。.

村田沙耶香
作家。1979年生まれ。『授乳』で群像新人文学賞優秀賞、『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞受賞、『殺人出産』で第14回センス・オブ・ジェンダー賞少子化対策特別賞受賞、『コンビニ人間』で芥川龍之介賞――と数々の文学賞を受賞している。芥川賞受賞時には同時にコンビニ店員の仕事も兼業していることが大きな話題となった。

■西加奈子
作家。1977年生まれ。2歳までイラン・テヘラン、小学1年から5年までエジプト・カイロに暮らす。『あおい』でデビュー、『通天閣』で織田作之助賞・大賞受賞、『サラバ!』で第152回直木三十五賞を受賞している。

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■利重剛さん
りじゅう・ごう。1962年生まれ。俳優・映画監督・エッセイスト。
1981年、自主製作映画『教訓I』が、ぴあフィルムフェスティバルに入選。
同年、『近頃なぜかチャールストン』のプロットを日本映画界の巨匠・岡本喜八監督に持ち込み、喜八プロ作品として映画化され、「独立非行少年」役で主演を果し、共同脚本・助監督をも務める。共演者は財津一郎・小沢栄太郎・田中邦衛・殿山泰司・岸田森・平田昭彦などのベテラン名優たちだった。さらに同年、テレビドラマ『父母の誤算』で新しいタイプの不良少年を演じ、鮮烈なテレビデビューを飾り、以後、数々のドラマ・映画に出演する。
1989年、『ZAZIE』で監督に進出し、1996年『BeRLiN』では日本映画監督協会新人賞を受賞。2001年『クロエ』はベルリン映画祭に出品もされた。他の監督作品に1994年『エレファント・ソング』、2013年『さよならドビュッシー』などがある。
エッセイ集に『街の声を聴きに』(日本文芸大賞受賞)、『利重人格』があり、最新作は『ブロッコリーが好きだ。』

利重剛ウェブ・サイト『利重人格』

(構成:藤井良樹)

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