連載

「エロ」は「反応描写」がなければ成立しない/『愛してるぜベイべ★★』槙ようこ

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善意に触れただけで人は強くなれるのか

 本作では、生きづらさを抱えた人間が入れ替わり立ち替わり何人も登場する。それはたとえば、ナイフ所持リスカ常習のイジメられ女子中学生だったり、家庭事情から妹の世話を一手に負わざるを得ない女子高生だったり。あるいは、ゆずゆの母・都や、ゆずゆの友達の母のように、子育てに行き詰まった母親だったり。強い女に見える鈴子は、実は子どもを産めない身体であり、それゆえに、ゆずゆを置いていった都を許せないと憤っている。産んでもつらいし、産めなくてもつらいということが明確に描かれているし、両者が相手の苦しみを完全に理解するのが難しいであろうことも読み取れる。思春期女子のみならず成人女性の苦悩をしっかり描くのも、90年代『りぼん』にはあまりなかった試みだ。

 それはいいと思うのだが、ただ問題の収束方法が、毎回結平が相手の善意に訴えることで相手が目を覚ます……なのはちょっと単純すぎやしないか。問題を抱えた人間が自分の弱さを改め強くなろうとする、という流れの繰り返しでは、結局は「人は強くならなきゃいけない」になってしまう。せっかく「大人の弱さ」「生きづらさ」を取り上げるのであれば、善意だけで物事はそうやすやすと好転しないし解決しないこと、人はそうそう強くはなれないことまでリアルに描いてほしかった気もする。

 都がゆずゆを残して蒸発したことに片倉一家は激怒している。それはもちろん自然な反応だと思うが、もし都が誰にも助けを求めず逃げ出すことをしなければ、ゆずゆはもっと傷ついていたのかもしれないわけで……。女子小学生読者をターゲットにした漫画誌の作品だからこそ、「母親」が万能ではないこと、「育児」がどうしようもなく苦痛になることが起こり得ること、そしてそれは決して一部の特殊な人間の話じゃないことをもっと訴えてもよかったのではないかと思う。

 最後に、ゆずゆのキャラクターについて。可愛い。可愛い。というか、めちゃめちゃいい子すぎる。5歳だが、普段の言動は一般の5歳児よりもはるかに幼く(個人差があることは重々承知)、にもかかわらず聞き分けだけはものすごくよくて、素直で、健気……まさに天使だ。親戚の家に預けられている状況(つまり子どもなりに気を遣っている)とはいえ、5歳児なんて特定の相手にわがまま言ったり意地悪したりするし、まだまだ気に入らないことがあれば泣き叫ぶし、あれこれ計算もするけどその一方で馬鹿なこともやる、それでいて自意識過剰……と、当たり前に悪魔な面を持っている。結平と愛着関係が形成される以上、子どもの扱いづらさに困惑し、投げ出したくなる瞬間も描いて良かったかもしれない。結平がゆずゆの信頼を獲得していく過程が、あまりにスムーズで、物足りなさを感じることは否めない。ゆずゆが普通の子(=いい子の面も嫌な子の面も持つ子ども)であればもっと面白くなるんじゃないか……というのは余計なお世話か。

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