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現ニューヨーク市長は選挙時の公約を守り、市内の全4歳児(約7万人)が “Pre-K” と呼ばれる幼稚園に無償で入れる 「Pre-K for All」と呼ばれるシステムを2年前にスタートした。そして先日、今後は全ての3歳児が無料でPre-Kに入園できる「3K for All」を開始すると発表した。
待機児童問題が深刻な日本から見ると夢のようなシステムだが、ニューヨークの幼稚園事情には日本と全く異なる社会背景がある。「Pre-K for All」「3K for All」の目的は働く親のための託児所機能よりも、「所得格差による教育格差」を縮めることだ。
全ての4歳児を幼稚園に入れる努力は全米レベルで以前よりなされており、オバマ前大統領も早期教育の重要性を演説で熱心に語っていた。理由は幼児期の英才教育ではなく、先にも書いた「所得格差による教育格差」を縮めることだ。アメリカでは定説となっている研究結果がある。「豊かな家庭の子供が3歳になるまでに耳にする言葉の累計数は、貧しい家庭の子供のそれを3,000万語上回る」というものだ。英語では例えば「Do you want a toy?」(オモチャ 欲しい?)を5語と数えるため、単語の数としては日本語よりかなり多くなるが、それでも3,000万語の差はショッキングだ。
この差の理由は、豊かな家庭の親は貧しい家庭の親よりも何倍も子供に話し掛けることにある。豊かな親は高等教育を受けていることが多く、教育熱心であることに加え、経済的なゆとりが子供と接する時間的および精神的なゆとりを生んでいることが考えられる。いずれにしても3歳までの3,000万語の差は、それだけで子供の学力に後々まで大きな影響を与える。さらに貧しい家庭の子供は学力の低い公立学校に進むことが圧倒的に多く、優秀な学校に通う豊かな家庭の子供との学力差は広がる一方となってしまう。
そこで、乳児期から政府や行政が介入するのは難しいが、幼稚園になるべく早く入れて格差の短縮を図ろうというのが「全4歳児の幼稚園入園」、そして次の段階としての「全3歳児の幼稚園入園」なのである。
8am – 6pm の幼稚園
ここでアメリカの複雑な学年割りを説明しなければならない。アメリカは教育システムも州や行政区分によって微妙に変わるため、ニューヨーク市を例として挙げる。
まず小学校(1~5年生)、中学校(6~8年生)、高校(9~12年生)の5・3・4制となっている。小学1年生は6歳(同じ年の1~12月に生まれた子供が、6歳となる年の9月に入学する)。ただし多くの小学校に通称 “K” もしくはキンダー(キンダーガーテン)と呼ばれる5歳児対象の1年だけの幼稚園が付属している。キンダーは義務教育ではないが、多くの子供はキンダーから入り、そのまま同じ学校の1年生となる。キンダーが実質的な小学校初年のような位置付けだ。
このため、Pre-K(プリ・ケイ=プリ・キンダー)と呼ばれる3~4歳児対象の幼稚園の存在が重要になってくる。Pre-Kに通った子供は通わなかった子供に比べ、キンダー入学時点で学力と社会性が勝っているのである。「全4歳児入園システム」が敷かれる前は、豊かな家庭の子供は私学のPre-Kに通い、貧しい家庭の子供は通えなかった。政府主導で低所得家庭の子供が無料で通える公立のPre-Kを作ったが、それでも全ての4歳児を終日制で受け入れることは出来なかった。そこで現ニューヨーク市長がついに全3~4歳児のPre-K完全入園を実現させたのである。
多くのPre-Kは全日制だ。放課後はそのまま学童保育と連動させ、最終引き取り時間を午後6時前後としている園も多い。
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