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「待機児童問題」が存在しないニューヨーク 全4歳児を無料の幼稚園に入れる目的は「学力格差」の解消

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4歳児の「学力格差」

 しかし、ここで「めでたし、めでたし」で終わるわけではない。全員が入るとなると、また別の問題が持ち上がるのである。「Pre-Kごとの所得と人種による分断」が起こっているのだ。

 ニューヨークは市内ほぼ全域で人種と所得による住み分けが行われている。例えば、アッパーウエストサイドと呼ばれる地域はリッチな白人が多く、著者が住んでいるハーレムなら貧しい黒人とヒスパニックが集中し、チャイナタウンは当然、中国系が多数を占める。無料のPre-Kは公立学校扱いなので校区指定があり、越境入園はできない。したがってリッチ地区はリッチな白人の子供ばかり、貧しい黒人地区は貧しい黒人の子供ばかり……となる。

 豊かな家庭と貧しい家庭の両方を含む校区の場合、豊かな家庭の親は子を「レベルの低いPre-K」には入園させない。まず、校区内に複数あるPre-Kのうち、優秀で評判の良いところに申し込む。そのため人気の園は申し込み過多でくじ引きとなり、「順番待ち」が出来てしまう。市が9月の新年度に全員をとにもかくにもいずれかの園に入園させるため、いわゆる「待機児童」は出ない。しかし、「レベルの低いPre-K」では不満な親はあらゆる手を使い、他の区の「良いPre-K」に入れることもする。

 つまり、3歳までに家庭で培われた能力格差を縮めるための4歳児Pre-Kが、そこでも能力格差を起こしてしまっているのである。

公立大学の無償化プラン

 アメリカでは公立の小中高は全て無償だ。ただし高校はいわゆる義務教育でもあり、そうでないとも言える不思議な仕組みとなっている。ニューヨークの場合は16歳までが「学校に通わねばならない年齢」と定められている。留年なしでストレートに中学までを終えた場合、高校入学時は13~14歳なので成績の如何にかかわらず、全員が入学する。高校3年目か最終学年で17歳の誕生日を迎え、義務教育年齢ではなくなるが、授業料は無償のままだ。

 給食もニューヨーク市の場合、朝食(シリアル、ワッフル、ベーグルなど+フルーツジュース程度)は無料。ランチは1食1.75ドル(月額4,200円程度)だが、低所得家庭は無料となる。なお、朝食は自宅で食べてから登校するのであれば学校で食べなくてもよい。ランチも特にアレルギーなどなくとも持参したければしてもよい。

 低所得家庭の子供は、学期中は無料の朝食と昼食を学校で食べるため、家庭によっては夏休みや冬休みの食費が賄えない。満足な食事を摂れない子供が出るため、地域の公民館や学校などで朝食とランチを無償提供するプログラムが市内各地にある。

 大学についてはニューヨーク州知事が公立大学の無償化を宣言したところだ。ニューヨーク州立、ニューヨーク市立の大学と2年制大学であれば、家庭の所得と生徒の成績によって学費免除となる。ただし学生は卒業後、在学年数と同じ年数をニューヨーク州内で働かねばならない。州の税金によって進学する以上、州に貢献せよ、ということだ。

 世界に名だたる大富豪と、生活保護だけで暮らす極貧家庭とが共にひしめくニューヨーク。驚くほどの所得格差は教育格差に直結し、その差は埋めようがないほどに大きいと感じる。しかし決して諦めず、その差を少しでも縮めるための行政努力が日々続いているニューヨークなのである。
(堂本かおる)

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