「サンキュー、ジーザス!! エイメン!!」
R&Bシンガーのファンテイジアは渾身の力を振り絞り、最後は涙を流しながら歌い切った。ハイヒールはとっくに脱ぎ捨て、素足でステージに立ち尽くしている。すでに午後10時を過ぎていたが、18,000人もの観衆で埋め尽くされたアリーナは興奮の坩堝と化していた。
毎年恒例の「マクドナルド・ゴスペルフェスト」が、5月13日に開催された。筆者は幸運にも取材者としてオールアクセスのパスを手にし、ステージ前、バックステージ、審査員席、観客席を自由に出入りした。いわゆる“かぶりつき”で聴くゴスペルはもちろん迫力満点で感動的だったが、この記事では会場でつぶさに見聞きした「ゴスペルと信仰」、そして「日本人とゴスペル」の関係を考えてみたい。
伝統のゴスペルフェスト
ゴスペルとはキリスト教プロテスタントの宗教音楽。本来は歌い手の人種を問わないが、一般的にはアメリカの黒人教会で歌われる楽曲を指す。Gospelという言葉自体はGood News(良い知らせ、日本語では福音)が基となっている。
ゴスペルフェストは今年で第35回となる。会場はニュージャージー州にあるプルーデンシャルセンターという巨大アリーナだ。ニューヨークのマンハッタンから電車でわずか20分の距離にある。
フェストは午後4時から11時30分までの長丁場。前半は予選を勝ち抜いてきたゴスペル・シンガーやクワイア(聖歌隊)が競い合うコンテスト、後半は大物ゴスペル・アーティストによるコンサートの二部構成となっている。
コンテストのカテゴリーはソロ・シンガー、クワイアだけでなく、「ゴスペル・ラップ」「ゴスペル・ダンス」「ゴスペル・コメディ」など多岐にわたる。ヒップホップ世代の若者はゴスペルをラップにする。ストリートファッションを身に纏い、一見すると普通のラッパーと見分けが付かないが、リリックは神への賛歌とポジティブな自己啓発だ。ドレッドロックスのラッパー、D. Royulはこんなフレーズを繰り出した。
「神はオレたちよりもパワーを持っている/人生を突っ走れ(そうじゃないと)神はおまえを信じてはくれない」
ダンス部門ではダンサーたちがゴスペルに合わせて踊る。しなやかな群舞もあればアクロバティックなものもあるが、いずれも信仰や神からのインスピレーションに基づいて創作されたコレオグラフィ(振り付け)だ。