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日本人にゴスペルは歌えるか~マクドナルド・ゴスペルフェスト2017

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苦闘の人生〜ファンテイジアに熱狂

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 コンテストが終わると一流のゴスペル・シンガーによるコンサートが始まった。故ホイットニー・ヒューストンの母としても知られるシシー・ヒューストン、グループ名が聖書に登場するふたりの“マリア”にちなんでいるゴスペル姉妹デュオ、メアリー・メアリーのエリカ・キャンベル、そしてファンテイジアを含めた総勢7組が出演した。トリの2人は共にニューヨークにある教会の牧師であり、かつゴスペル・アーティストとしてグラミー賞受賞歴もあるドニー・マクラーキン、ヘゼカイア・ウォーカーだった。現役の牧師が第一線のゴスペル・アーティストでもあるところに黒人教会‐信者‐ゴスペルの強い繋がりが見て取れる。

 いずれ劣らぬ大物揃いだったが、やはりファンテイジアのステージが最大の盛り上がりとなった。特に女性たちの熱狂と歓声が凄まじかった。

 ファンテイジアは2004年に弱冠17歳で『アメリカン・アイドル』で優勝し、一躍、大スターとなったR&Bシンガーだ。彼女は華やかなスポットライトを浴びる前、10代前半にしてすでに非常に厳しい人生を送っていた。14歳でレイプされ、それがトラウマとなって高校を中退。16歳で長女を生むも、子の父親からDVを受けて離別。さらに識字障害でもあった。

 幾重もの苦難を乗り越え、『アメリカン・アイドル』を勝ち抜くことが出来たのは飛び抜けた歌の才能に加え、5歳から教会で歌ってきた“キャリア”も理由であった。日本ではあまり紹介されていないが、ファンテイジアはデビュー後もゴスペルを盛んに歌っている。

 ファンテイジアはスターになった後も苦労が絶えなかった。契約問題が原因で破産寸前となり、妻のいる男性との交際で訴訟沙汰の挙げ句、自殺未遂。だが、この時も苦闘の末に再生し、2011年にはある男性との間に元気な男の子を生んでいる。

 全米の女性たちはファンテイジアの歌唱力だけでなく、その人生にも共感を覚えた。貧困化が言われる近年の日本と比べても、格段に多くの黒人女性が貧困、レイプ、高校中退、学習障害、シングルマザー、DV、不倫などを直接体験、もしくは身近な誰かの体験として知っている。人生の重圧をファンテイジアが信仰の力で乗り越えたことがクリスチャンには大きな励みなのだ。

 つまり黒人にとってのゴスペルとは、自身の精神と人生を支え、先へと導いてくれる神への感謝を、黒人にとって無くてはならない音楽というアートフォームによって表すものなのである。そうして歌われるゴスペルは聴く者をも高揚させ、精神を充足させる。観客が涙ぐんだり、手をつないだり、カップルや親子であれば抱き合ったり、またはコンテスト参加者が「ゴスペルとは“愛”だ」と語ったのも頷ける。

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