
『彼女たちの売春(ワリキリ) 』(扶桑社)
2017年5月22日、読売新聞が「前川前次官 出会い系バー通い 文科省在職中、平日夜」と朝刊で報じた。文部科学省前事務次官の前川喜平氏が、加計学園の獣医学部建設問題について総理の「意向文書」があったと証言し注目が集まっていた矢先のことだ。読売新聞の報道を受け25日に会見を行った前川氏は「出会い系バー」に通っていたことを認め、女性の貧困調査が目的だと説明を行った。
翌日、記者会見を行った菅義偉官房長官は「調査だったら1回か2回」「強い違和感を覚えた」と批判。30日の産経新聞は「なぜ前川喜平前文科次官は『出会い系バーで貧困調査』という苦しい釈明をしたのか」といったコラムを掲載した。
そもそも「出会い系バー」とはどのような場所なのか、「貧困調査」は「苦しい釈明」なのか、そして今回の騒動で見過ごされていることとは? 『彼女たちの売春(ワリキリ)』(扶桑社)や、『夜の経済学』(飯田泰之と共著、扶桑社)などの著者であり、調査のために全国の出会い系喫茶・バーを取材した評論家の荻上チキ氏に話を聞いた。
出会い系バーは「売春」「援助交際」の交渉の場か?
“在職中、売春や援助交際の場になっている東京都新宿区歌舞伎町の出会い系バーに頻繁に出入りしていたと関係者への取材で分かった。教育行政のトップとして不適切な行動に対し、疑問が上がりそうだ。(中略)女性らは「割り切り」と称して売春や援助交際を不男性客に持ち掛けることが多い。報酬が折り合えば店を出て、ホテルやレンタルルームに向かうこともある”(2017年5月22日、読売新聞「前川前次官 出会い系バー通い 文科省在職中、平日夜」より引用)
――出会い系バーは「売春や援助交際の交渉の場になっている」場所なのでしょうか。
荻上:大きく間違ってはいません。ただ、一面的でもあり、世間に伝わるイメージは正確ではないでしょう。例えば援助交際=女子高生というイメージが一般にあると思いますが、出会い系喫茶やバーは18歳未満の入場を断っています。特に出会い系喫茶は風営法の対象になってからは、営業規制がかかっているので厳しいですね。全くいないかどうかは分かりませんが、2010年から800人を超える喫茶利用者を調査してきた中で、18歳未満の人は含まれていなかった。少なくとも都内の場合、児童買春が目的だったら、違う店に行くはずです。
――出会い系バーと、児童買春とは関係は薄いと。では売春の交渉をしている場所なのでしょうか?
荻上:多くの女性や男性が、性サービスを対価とした交渉を目的としてやってくる場所であることに間違いはありません。しかし利用者の人たちが全員、売春目的で来ているわけではありません。
たとえば「茶飯」と呼ばれる言葉があります。売春をせず、ご飯に行ったりお茶をしたり、カラオケに行くことを指します。フリーのキャバクラのようなイメージですね。男性側の聞き取り調査もしていますが、そういった連れ出しが目当てで来る人もいます。また、交渉の過程で、女性側が「ワリキリやってないです」と断った場合、「じゃあ、茶飯だけで、ご飯行こうよ」なることもあります。
それと、社会科見学的にくるような人もいますね。大学生の集団とか、会社員の集団とかで、「へー、こんな場所なのかー」とか言って、わりと早く飽きて帰っていく。それと、「エピソードを聞きたい」「実態を知りたい」と調査や取材に来る人もいて、ぼくもその一人ですね。ライターや雑誌記者、テレビ局の方などもちらほらいました。取材した女の子から、「この前別の取材を受けたばかりだよー」といった話を聞くこともあります。
――ワリキリをしている割合はどの程度ですか?
荻上:割合として多いのは確かです。ただ、ぼく自身は「ワリキリ調査」のために、そもそもワリキリをやっている子にしか取材依頼をかけないので、正確な数字はわかりません。ただ、継続的に喫茶に通う人に関しては、半数以上がワリキリをやっていると考えていいと思います。