前川前文科次官「出会い系バーで貧困調査」報道に必要なのは、事実の検証であり人格評価ではない/『彼女たちの売春』著者・荻上チキさんに聞く

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「貧困調査」は「苦しい釈明」か?

――菅官房長官から「教育行政の最高の責任者がそうした店に出入りして、小遣い渡すようなことは到底考えられない」(政府インターネットテレビ:平成29年5月26日(金)午前-内閣官房長官記者会見より09:28~)との発言がありました。

荻上:そもそも出会い系は、「小遣い」を渡さないと外出できません。話を聞くためだけに店を出ていけないからです。お店のトークルームでは5~10分程度しか話せません。謝礼抜きで出かけるということは、女性たちにとってお金を得るチャンスを失うことです。「調査だから無料で話を聞かせてくれ」で、一緒に出ていく女性はいません。それを「お小遣い」と表現するか「謝礼」と表現するかは変われど、ぼくが取材をするときは対象者に時間拘束代として必ず取材費を払っていました。

――同様に菅官房長官は「調査だったら1回か2回じゃないですか」(政府インターネットテレビ:平成29年5月26日(金)午後-内閣官房長官記者会見より1:28~)とも発言しています。

荻上:本気でやるなら、1、2回で調査は終わりません。それはただの「見物」「見学」です。数百人に会って、それでようやく見えて来たものがたくさんあります。前川氏の発言では、「小学生の2人の子どもを抱えていて、水商売で暮らしている」「就学援助でなんとか子どもが学校に行っている」といったケースが紹介されています。そこに出てきた、母子の貧困や学費の問題ついては、一人だけのケースを聞き、簡単に答えが出るようなものではありません。何人も調査を重ねないと実態が見えてこないと思います。逆に菅さんは何かの調査を真面目にしたことがないのでしょうか。前川氏のイメージを下げるために、「調査」の在り方に誤った言及をするのは違うなと思いました。

――産経新聞は「苦しい釈明」とも書いていますが、実際「苦しい釈明」だと荻上さんは思いましたか?

荻上:前川氏が実際に何をしていたかはわかりません。世の中一般からすると、イメージとして「そんなことありえない」と思うかもしれませんが、ぼくはまさにそういった調査をやっているので、別にありえないとは思いませんでした。「野宿者支援を調査するために、NPOの炊き出しの現場に通いました」と言われて「ああそうなんだ」と聞く感覚と一緒ですかね。風俗調査をしている知り合いもいますが、その人は風俗利用をしていませんし、端的に人によりけりです。

これはリサーチを経験した人ならわかると思うんですけど、話を聞くことには中毒性があって、「まだやめられない」「もっと聞かなきゃ」と考えるようになり、通い詰めるようになったりします。物書きや大学の研究者もそうです。誤解しないでほしいのは、ぼくは前川さんを擁護しているのではなく、調査を擁護しているんです。菅官房長官が「1回、2回で」とか「小遣い渡して」と批判するけれども、仮に調査だったらそんなことはざらにあります。前川氏を否定するあまり、誤った知識を拡散したりするのは違うなと。

出会い系バーでごまかされたもの

――前川氏が出会い系バーに通っていた事実をもって、加計学園文書自体の信ぴょう性を疑うような発言や報道がありましたが、どう感じましたか?

荻上:最初は出会い系バーに行ったこと自体を問題視していましたよね。そこから「出会い系バーについて苦しい説明をするような人ですよ、加計学園の件でも正しい説明をするでしょうか?」との論法にスライドしていきました。

そもそも、出会い系バーに通ったから不適切だと考えるのもよく分からないロジックです。国会で答弁している人たちは、クラブや風俗などを利用したことのない人たちばかりなのでしょうか。もちろん、僕は利用していても問題ないと思いますし、むしろセックスワークの非犯罪化を主張する立場ではありますが、批判するためのダブルスタンダードならご都合的だと思います。

また、仮に彼が売春していたとしても、今回の加計学園文書とは切り離して考えるべきです。文書に記されていた内容については、自分の部分については事実だと証言している人も出てきていますし。告発者の人格と告発内容の妥当性は別です。

――前川氏を擁護する人の中で、「彼は立派な活動をしているんだ」とその清廉潔白さを主張する人もいました。

荻上:個人的に表明する方はいると思います。実際にぼくの周りの複数のNPO関係者から、「前川さんは官僚の中でもいろんなところに足を運ぶ人だ」と聞いたことがあります。だからといって、今回の文書への証言が本当である証明にはなりません。

どちらの発言者が誠実なのかを比べあっても仕方ありません。良い人アピールも、悪い人アピールも本質ではないでしょう。その点、読売新聞が、「出会い系バー通い」という情報だけで、説得力を奪おうとするような報道に加担したことにこそ驚きました。本来、事実をベースに検証するべき問題が、「人格評価」になってしまうことに危機感をもっています。文書管理や政策検証の仕組みについて検討するための材料をすべて洗い出す、そんな議論を丁寧にしてほしいと思います。
(聞き手・構成/山本ぽてと)

(注:“出会い喫茶の店舗形式は、「マジックミラー型」「セパレート型」「ウォーク・イン型」といった類型に分けられる。「マジックミラー型」は、最もメジャーな店舗形式だ。「男性ルーム」と「女性ルーム」の間がマジックミラーによって仕切られており、男性はマジックミラー越しに女性を物色する。(中略)「セパレート型」は「マジックミラー型」とは異なり、男性ブースと女性ブースとが簡易に分けられているだけで、互いの姿を自由に見ることができる。(中略)「ウォーク・イン型」は、男女それぞれのブースが、ただ分けられているという点では「セパレート型」と同様だ。違うのは、女性ブースの真ん中に一方通行の通路が設けられており、男性は女性を物色するため、そこを歩くことができるというもの”(荻上チキ『彼女たちの売春(ワリキリ)』(扶桑社)より引用))

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