刑務所で出産・育児~『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』のリアリティを覆せ

文=堂本かおる
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『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』公式サイトより

『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』公式サイトより

 

 6月9日にネットフリックスの人気ドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』の第5シーズンが始まる。ニューヨーク郊外にある架空の女子刑務所を舞台に、女子刑務所内の知られざる世界を赤裸裸に描く衝撃のドラマだ。

 ドラマには受刑者たちの人種別組織と抗争、刑務官からの虐待、セクシャルハラスメント、ドラッグ売買、レズビアン、友情、刑務所の民営化、そして暴動まで登場するが、エピソードのひとつに「出産」があった。

 受刑者の一人、麻薬密売組織のボスを父に持つマリアは、入所した時点で恋人の子を身ごもっていた。陣痛が始まったマリアは病院に搬送され、無事に元気な女の子を産む。しかし刑務所の規則どおり、出産直後に子供は取り上げられ、マリアは独りで刑務所に戻る。刑務官に付き添われたマリアが刑務所の歓談室に入ると、マリアと共にヒスパニック・グループ「スパニッシュハーレム」を結成している仲間だけでなく、普段は敵対している白人や黒人の受刑者たちも深い同情の眼差しを向けた。生まれたばかりの我が子を抱けない辛さ、哀しみをすべての受刑者が女性として理解したのだった。

『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』シーズン5 予告編(日本語版)

毎年2,000人の赤ちゃんが刑務所で誕生

 アメリカは刑務所大国だ。現在226万人もの受刑者が刑務所(*1)にいる。うち22万人が女性だ。少年院にも男女合わせて5.4万人がいる。実人口が多いだけでなく、人口10万人当たりの収監人口も670人と、他国を大きく引き離して世界で最も多い。理由はドラッグだ。アメリカは1980年代の麻薬の蔓延に手を焼き、ドラッグにまつわる法律を非常に厳しくした。その結果、ドラッグの所持と売買、つまり非暴力犯の収監者が大幅に増えたのだった。よって女性の数も増えた。

 こうした様々なデータから「2001年生まれのアメリカ居住者は男性9人に1人、女性56人に1人が生涯のいずれかの時期に刑務所に入る可能性がある」と試算されている。(*2)

 さらに驚くべき事実として、全米各地の刑務所に収監されている22万人もの女性受刑者のうち、毎年約2,000人が出産している。『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』のマリアのように入所した時点で妊娠していた女性たちだ(稀に男性刑務官によるレイプ、または刑務官との情事による妊娠もある。また、女性刑務官が男性受刑者との情事により妊娠する事例もある)。

 2,000組の母子の大多数はマリアと娘のように誕生次第、すぐに引き離される。アメリカは特に低所得層にシングルマザーが多く、赤ちゃんは母親の親族に育てられることが多い。マリアの娘のように父親に育てられるケースもあるが、親族に引き取り手がない場合は里子となる。なお、アメリカは擁護施設より里親制度が浸透している。集団生活を強いる擁護施設よりも、一般家庭に近い環境である里親宅のほうが子供の養育に適しているとの考えからだ。

 いずれの場合も母親とは刑務所での面会日にのみ会うこととなるが、里子となった子が面会に来ることは稀だ。親族が育てる場合も親族の生活状態や居住地と刑務所との距離によっては難しい。こうして母子の絆を育むことが出来ないまま子は育ち、出所後の母親と良い親子関係を築くことが困難になるケースも出る。これは子供の人権問題でもある。

*1 プリズン(刑務所)とジェイル(拘置所)の収監者数の合算
*2 司法統計局のデータを基にThe Sentencing Projectが試算

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