シンデレラMCバトルが可視化した女性ラッパーたちの現在と未来

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少しずつ重なるフィメールラッパー層の厚み

また、ライブアクトではそれぞれ音楽性もスタイルも見せ方も違う演者が揃ったのも特筆すべき点だ。

バックダンサーを従え、荒々しくも完成度の高いステージングを見せつけたちゃんみな。どこか夜のにおいのするポップな曲と、自身のバックボーンを語る切実な曲を併せて魅せたReichi7人編成のパワフルなステージで、ダンスミュージックとしてのヒップホップの楽しさを共有させたS7ICKCHICKs

そして、審査員としてこの場に参加し、MC・ライブを通して自身の歴史を語ったCOMA-CHI。ヒップホップクラシックのひとつ「MICHIBATA」を生み出し、10年以上前に女性ラッパーとして、たったひとりでバトルに出ていた33歳の彼女の語りは、日本語ラップにおける女性の歴史そのものでもある。

COMA-CHI MICHIBATA ミチバタ

高揚した表情で「男にどう見られるとか、そんなこと気にしてたら絶対にMCバトル出ないよね。自分のやりたいことを貫く。そして自分自身に愛を向けそれをどんどんどんどんやばいものにしていく。そういう自分との戦いをやってる人たちが今日集まってる」と誇らしげに語る姿は、このイベント中でもっとも胸を打つ場面のひとつだったろう。

また、戦極賞受賞者としてコメントを求められた椿が、フリースタイルラップで「始まりは15の頃。女はヒップホップなんて語るんじゃねえって言われて、正座させられて水をぶっかけられた。そんな過去がある。そっから私が始まって」「COMA-CHIMICHIBATAを聞いてやってきた。そういつでも学んできた」と、先人であるCOMA-CHIについて語ったことも印象的だ。現在25歳の彼女が語る15の頃とは、およそ10年前だろうか。現状のヒップホップがまだまだ根強い男尊女卑社会であること。そして、それを突き破ろうとしてきた先人の背を追いかけるMCが現れていたことが可視化された。

もうひとつ大きな変化は、シスターフッド成立のきっかけとなったことだ。

COMA-CHIMCで、「女ラッパーの枠ってずっとひとりみたいな感じだったけど、こんないろんなタイプの女ラッパーが出てきて。最近女芸人だけでイベントやれるくらいいろんな人がいるって認められてきてんじゃん。もう女のラッパーもそういう時代になると思いました」と語ったように、彼女がデビューした2006年は、まだ女性のラッパーの数は限られており、それらが横のつながりをもって活動していくにはあまりに層が薄かった。しかし、今回のイベントをきっかけに、女性ラッパー同士がこれまで以上に交流の機会を持ち得るようになり、大会に参加したラッパー同士が共同で曲をリリースしたり、お互いのイベントや配信に顔を出す場面も増えた。

COMA-CHI本人も、自身のバースデーイベント終了後に、「女性同士のバトルが開催されるほど人数が増えてるなら、勝ち負け抜きでみんながリンクして楽しくやる場所もないとアカンやん、と思っとります」とツイートしている。

もちろん、現行の日本語ラップシーンの全てが男尊女卑社会というわけではなく、私自身、男女の別なく音楽を通して人と人が心を通わせる場面や、共同で何かを作り出す場面を数え切れないほど見てきた。

ただ、一方で現状のシーンが性差を意識せずに活動できる場と言うことはできない。たとえば男性ラッパー4人による「ブス5000:ROO-TIGERfeatポチョムキン(餓鬼レンジャー)呂布カルマ、campanella」という曲がある。「バスで老人に席譲るブス 料理上手のブス 踊るブス 何やったってブスはブス(呂布カルマ)」というリリックが出てくるような曲だ。

もちろん、disというフォーマットを利用するヒップホップカルチャーの前例に乗っ取れば、女性MC側から「不細工10000」といったテーマの曲を出して反撃することは可能なはずだ。しかし、たとえばレーベルもイベント主催者も共演するラッパーもほぼ男性というシーンで、そうした反撃が女性側に許されるだろうか?

状況を鑑みると、女性たちが共同体を結成し、互いに曲の制作やイベントの開催を通してそのコミュニティを大きくしていくことは、過渡期である現在のシーンにおいて非常に意味のあることだ。

もちろん、それは最終的に「女性であること」が「山梨出身であること」「右利きであること」「目が悪いこと」などと同じような、「あくまでその人を表す属性のひとつ」として語られるようになるまでの過程のひとつではあるが。

とにかく、日本語ラップシーンは、シンデレラMCバトルを通して以前とは違った形で女性の声を表に出すことに成功した。このことだけは、はっきり言える。

611日に第2回を迎えるシンデレラMCバトルの推移も含め、その動向を改めて見守っていきたいと思う。

(池田録)

※一部内容に誤りがあったため修正いたしました(2017.06.10)

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