
利重さんと枡野さん
利重さんと枡野さんが「大人にとっての幸福と成長」を語ります。≪成長とは、幸福になることだと思う。≫という利重さんの言葉に、枡野さんは自分の書いた本に対して「みんなが“不幸を見せびらかしてる”っていうんです」と――。
離婚と再婚を経て、子どもを得て、「ずっと独りが好きだったけど今は若い頃より幸せ」という利重さんと、「あんまり成長を自分はしてない感じがする、いつまでも離婚のこと書くし……」という枡野さんが、それぞれの立場と意識から実感する≪大人にとって、男にとっての、幸福と成長≫とは果たして何なのでしょうか?
「今、54歳ですけど、若い頃より幸せです」(利重)
利重 僕、素直なんです。ほんとにそう思って(言葉を)書いてるだけなんです。
枡野 その素直さの精度がすごいというか。こういうこと言ったらウケるだろうという意識じゃないんですよね。
利重 そうですね。元々これ(『ブロッコリーが好きだ。』)はホームページに思ったことを書き残しておこうと思って始めたことで、本にしようと書いたものではないので、はい。
枡野 そこでね、「炎上」を狙ったりしてると、きっと嫌な文章になっちゃったりすると思うんですよね。なんかそういう意味で、今の自分に必要なことがいっぱい書いてあったんですけど。それで、次の紹介したい言葉が、
<成長とは、幸福になることだと思う。
逆に言えば、どんなに偉くなっても、
どんなに出来ることが増えても、
幸福を感じる時間が増えないのならば、
それは成長とは呼べないんじゃないだろうか。>
あの、僕、成長ってするのかなってずっと思っていて、あんまり成長を自分はしてない感じがするんですよ。いつまでも離婚のこと書くし……。
利重 くくくく(笑)。
枡野 そんなときに≪成長とは、幸福になることだと思う≫と言われると、どうしたらいいんだろうと……。
利重 自分に言い聞かせてる部分もありますけどね、自分の中で。
枡野 ええ。
利重 ただ僕、今54歳なんですけど、やっぱり若い頃より幸せなんですよ。年々、少~しずつ幸せが増えていってる気もするし、幸せを味わうようにもしているし……。そこ、なんでしょうね。「成長したいなあ!」って思ってるんですよね、自分でもね。
枡野 幸福を感じるっていうのは、自分も感じるっていうのもあるけど、周りが幸せそうに思ってくれるっていうのもあるじゃないですか。
利重 はいはい。
枡野 この本書いてるときに、本人はそう不幸だと思ってないのに、(本を読んだ)みんなが「不幸を見せびらかしてる」っていうんですよ。そう言われると嫌な気持ちになって。別に自分は不幸を見せびらかしてもないし、そもそも不幸とも思ってもいないし……という気持ちだったんですね。
利重 どっかにも書かれてましたけど、「面白いかなと思って書いてる」っていう側面もあるわけですよね?
枡野 はい。
利重 そこはちょっと不思議、ですねえ。
枡野 そうですか……。
利重 でも、そういうつもり(不幸を見せびらかす)で書かれたと思って読むと……。う~ん、どうなんだろう?
枡野 駄々っ子みたいな感じにみえるのかなぁ。
利重 ただ、不幸を見せびらかしたりしてるような気は、僕には全然しないです。必要だから書いてるんだろうなって思ってます。離婚してから十数年……
枡野 13年になります。(別れた時に3歳だった)息子がもう16歳になったので。
利重 だから、よーーっぽど、枡野さんは傷ついたんだろうなぁとは思います。そして、傷ついた状態から回復するまでの時間っていうのは人ぞれぞれじゃないですか。ねえ? 三日寝れば大丈夫な人もいれば、働きつつ、二十年間ずーっと状態が変わらない人もいるわけだから。そして、これは乗り越えなければいけないこととして枡野さんは書いていることと思うので……。だから、不幸を見せびらかしてるっていう感じはやっぱり全然ないですね。
枡野 たとえば僕、離婚した直後は、まわりに同じような人がいっぱいいて、「俺も離婚したんだよ」とか「俺も枡野さんに話聞いてほしいよ」みたいな感じだったんですが、でもみんな再婚していくんですよ。そして幸せになって、僕を避けはじめるんですよ。
利重 ほぅ。
枡野 だから、自分だけいつまでもここにいて、みんなは変わっていってしまったなって思ってるんです。
利重 う~ん、みんな変わってしまってか……。でも枡野さんはお子さんいらっしゃるでしょ? そうするとすぐ再婚に気持ち向かないよね?
枡野 そうですね。それと、あまりもう自分は結婚に向いてなかったんだって思ってますね。どうですか、利重さんは?
利重 俺、こう見えて、二度結婚してるんですけど。一度も結婚したいと思ったことないのに、二度結婚してるんですけど(笑)。不思議なもんだなぁと。自分が他人と暮らせるなんて、出来ないってずーっと思ってたんですけど、今の嫁さんと……今のって、もう次の人と結婚するつもりなんて全くありませんけれど、だから今の嫁さんと暮らしてて、なんちゅうのかなぁ、「意外と向いてるな」って思ったんですよ。
枡野 そうですかぁ。結婚に?
利重 ええ。そうするとさっきの「成長とは?」の話ですけど、俺、ここまで成長できたら、大概の女と暮らせるなって思った。
枡野 えっ、そうなんですか!
利重 だから、枡野さんも次にトライしたほうがいいと思いますよ。必ずスキルが上がっていくだろうし、精神状態も、幸せになろうと自分がしていくし。自分が幸せになるためには、相手も幸せにしなきゃいけないとか、そういうこといろいろ生活しながら考えていくと、生活するのが楽になっていくんですよ。
枡野 はぁ、そうですかあ。
利重 ずっと独りが大好きだったし、文章なんて独りじゃなきゃ書けなかったのが、今や子どもがいる中で書けますしね。だって独りじゃないと書けないってなったら、子どもと一緒にいられないわけだから。少しでも子どもの近くにいようとすると、スキルが上がっていくんですよね。
枡野 へえ~。
利重 これはねえ、ぜひぜひ。
枡野 お子さんはおいくつなんですか?
利重 今、12歳ですね。
枡野 12歳かぁ。
利重 不思議なもんでね、だから今やね、たとえば女房に、「たまには実家帰んなよ」って、「子ども連れてさ、週末だけでも戻ってやんなよ、向こうも会いたがってるだろうしさ」って言ってね。それで女房と子どもが出かけていくと、3時間位は清々するのね。うわー俺だけの時間だー、俺だけの空間だーって。もう、今日は本当にいい加減なことをしてやろう、今日はペヤングを食ってやろう……。
枡野 ペヤングですか(笑)。
利重 いい加減なもん食って、洗い物なんかもしないんだ~……みたいな感じで。せっかくの独りの空間ですから、外に遊びに行っちゃうともったいないから、部屋でゴロゴロゴロゴロしてるんだけど、3時間もすると寂しくなるんですよ。
枡野 へえ~~。
利重 昔の自分から考えたら、想像できないですね。
枡野 はぁ~。
利重 結局、部屋、掃除したりなんかして。「ここを掃除しておくと、あいつらが帰ってきたときに褒められるかもしれない」なんて。すごい小さい自分が。
枡野 はははは(笑)。
利重 俺、昔はもっと豪快でワイルドな人間だと思ってたのに。全然、人間って変わりますよ。
枡野 本当ですか……。
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