「猫背を正せ」と指摘するのはその人の正義でしかない/利重剛×枡野浩一【3】

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「今の自分をなおそうとしたら、同じくらいの時間が…」(枡野)

枡野 (利重剛監督の映画)『ザジZAZIE』の中の台詞で、「性格の80%は癖だ。癖はなおせる」ってあって、僕は「なおせない、なおせない」って思ってたんですよ。

利重 あはははは(笑)。

枡野 癖はなおせないし、変わらないんじゃないかっていうのが当時の僕の実感だったんですね。

利重 はい。

枡野 あの台詞は、監督自身の考えでもあるんですか? 「癖はなおせる」っていうのは。

利重 100%って言っちゃうと、たぶんみんなが「絶対にそれはない」って言うだろうから、80%にしたんですけど、僕、性格変わると思うし。

枡野 そうですか。

利重 っていうか、人間って、人間ひとりの中に入ってるものってそんなに変わらないから、何が前面に出ているかの違いじゃないですか。豪快な人が全部豪快だってことはないでしょ? 豪快な人の目の奥になんかおどおどしたものがあったり寂しがり屋さんのところがあったりするじゃない? そのとき何が表面に見えてるかだけで、たぶんほとんどみんな一緒なんじゃないかと思うんですよ。朝と晩で性格変ってることも多いし。

今日こうやってお話ししてますけど、先ほど挨拶しているときに「はじめまして」って言うタイミングだったり、「やあ」っていうタイミングが2秒くらい違うだけで、その日、引っ込み思案になってしまったりするとか。自分の中の何が見えるかなんですよね。豪快な人だからってずーっと豪快でいられるわけじゃなくて……。豪快で居続けられる人は相手のことを無視する人なんですけどね(笑)。

枡野 なるほど。

利重 そういうことで言うと、性格って、ほぼ変えられると思うんです。

枡野 確かに、この人といるときの自分は、なんかこんな態度になっちゃうなとか、ありますね。仕事上でも。

利重 ありますあります。

枡野 この人といれば穏やかな気持ちなのに、なぜこの人とは攻撃的な気分になるんだろうかとか。

利重 そうそうそう。今日俺すごくイライラしてるけどなんでだろうと思ったら、目の前にいる人がイライラしてるからだとか。

枡野 あります。

利重 それって、たぶん変わってるんです、性格が。だからその癖を自分でつけていくと、驚くほど性格は変わると思うし。もともと僕、「気性みたいなものはあるのかなぁ」とも思うこともあるんですけど。すごく怒りっぽかったんですよ、僕、子どもの頃。

枡野 へえ~、そうなんですかあ。

利重 それが自分でもすごく嫌で、怒らない人になろうと思って、何十年かかけて……。今では「利重さん、怒るときあるんですか?」って言われるほどになれました。それはなんか、人から見てそう思われるんだったら、変わったんじゃないかって。本質的なことはわかりませんけど。いまだにカッとなったり、心の中ではカッとなってたりは結構あるので。

枡野 それとちょっと反することを書いてらっしゃるなと思った言葉が――

<僕の猫背は生き方だ。
 ほっといてもらいたい。
 手をぶらんぶらんさせて歩くのも、
 目が合った時にうんうんと頷くのも、そうなので。>p.120

利重 ふふふふ(笑)。

枡野 僕もすごい猫背なんですけど。動物の、そういう生き物いますよね。毛が逆立ったカナリヤとか、足の短い犬みたいなもので、猫背の生き物っていると思ってるんですよ。僕は遺伝子が決めるものがすごく多いと思っていて。あまり努力とかしても、遺伝子が決めるんじゃないかって思っちゃってるところがあるんですよ。

利重 なるほど。でも僕の見方はちょっと違うかもしれませんね。「利重さぁん、猫背ダメぇ!」とかって背中を叩かれるのが気に食わないっていう。ほっといてほしい。

枡野 でもそれは愛情ですよね。猫背を叩くっていう。

利重 ただ、その人の正しさじゃないですか。俺は人より背が高いから、人と話したいときにこうやって背を近づけて話したいんだと。結果として猫背になるんだよと。それを否定するのかね、君は……みたいな。それを文章にまとめると、≪僕の猫背は生き方だ≫になるんです。

枡野 や、でも、僕も、“猫背をなおす本”とか何度も買ってもなおんないです。4冊くらい買っても治んないです。

利重 あはははは!(笑) そうですか! 本まで!?

枡野 はい。

利重 僕ね、ちょっと裏切るようで申し訳ないですけど、猫背なおせるんです(笑)。

枡野 なおせるんですか!?

利重 役者やってますから。

枡野 ああ~~っ。そうですよね。

利重 背中をまっすぐにしてほしいと言われれば、その期間、猫背じゃない人になれます。これ、訓練ですから。寄せあってというのが大きいと思います。性格を変えたりとか……

枡野 違うキャラクターになったりとか。

利重 やっぱり、好き嫌いは別にして、自分が演じる人物の気持ちをわかるために努力していくじゃないですか。誰か人を殺してしまった人がいても、「信じられない!」で片づけちゃいけないと。とにかく理解しよう、その人が殺したことを。どうしたら、どういうスイッチを入れたら、人を殺すことになるんだろうと考えて。そして自分が「そこ」に沈んでいくと、ちょっとわかってくることがあるんです。いろんなスイッチが自分の中にあって、こういう人にも、ああいう人にもなれると。危ないスイッチをあるから、本当にそこを押しそうになると自分でも怖いけど。でも、大概どんな人にでも人間ってなれるんだって、僕は思いますね。役者やってて。

枡野 う~~ん、そうなのかぁ……。そういえば『ザジ ZAZIE』の中の台詞で、好きな台詞なんですけど、「ゆっくり悪くなったものって、ゆっくりしかなおらないんじゃないか?」っていうのがあったと思うんですけど……

利重 ありました。

枡野 つまり、今の自分は、ものすごく時間をかけてこうなってるから、なおそうとしたら同じ長さの時間がかかる……。もう折り返し地点すぎた年齢なので、死んじゃうくらいまでの歳月が必要になるんじゃないかと思っちゃうこともあって……

利重 ちゃんとすぐになおると思ったら大間違いですよね。

枡野 すぐになおるとしたら、すぐに戻っちゃいますよね。

利重 そうですよ。ただ、少しずつですけど性格は変わると僕は思ってて。僕自身が本当にそう思ってるので。特に子どもが生まれてからは、それ以前の自分とそれ以後の自分が全く違う人間のように思えます。

枡野 そうですか……。

利重 はい。

枡野 何が一番違いますか?

利重 まずは、主人公が子どもになっちゃいましたね。

枡野 ああ~!

利重 子どもの気持ちそのものは、当然違う人間なんだからわかるはずないんだけど、でも子どもの側から見ようとしますね、自分を。

枡野 なるほど! “父親を見る子どもの視点”みたいなところから。

利重 「長生きしたいな」っていうのも、独りのときの長生きしたいなとは違ってくるわけですよ。自分の幸せがどうっていうより、この子にとって自分がどうあればいいのか。そしたら、もう少し長生きしたほうがいいだろう、お金も稼いだほうがいいだろう、その上で、なるべく介護ということにならずにね、あるとき、ポーンと逝きたいなと。確実にもう目線が子どもなんですよね。どうでもいいの、自分なんか。正直言うと。こんなにも自分のことなんかどうでもいいって思えるようになるなんて、思わなかったですから。

枡野 それはあれですか、役者として違う人になってきたこととかも大きいですか?

利重 大きいですねえ。とても大きいと思いますね、役者やってたのは。

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■利重剛さん
りじゅう・ごう。1962年生まれ。俳優・映画監督・エッセイスト。
1981年、自主製作映画『教訓I』が、ぴあフィルムフェスティバルに入選。
同年、『近頃なぜかチャールストン』のプロットを日本映画界の巨匠・岡本喜八監督に持ち込み、喜八プロ作品として映画化され、「独立非行少年」役で主演を果し、共同脚本・助監督をも務める。共演者は財津一郎・小沢栄太郎・田中邦衛・殿山泰司・岸田森・平田昭彦などのベテラン名優たちだった。さらに同年、テレビドラマ『父母の誤算』で新しいタイプの不良少年を演じ、鮮烈なテレビデビューを飾り、以後、数々のドラマ・映画に出演する。
1989年、『ZAZIE』で監督に進出し、1996年『BeRLiN』では日本映画監督協会新人賞を受賞。2001年『クロエ』はベルリン映画祭に出品もされた。他の監督作品に1994年『エレファント・ソング』、2013年『さよならドビュッシー』などがある。
エッセイ集に『街の声を聴きに』(日本文芸大賞受賞)、『利重人格』があり、最新作は『ブロッコリーが好きだ。』

利重剛ウェブ・サイト『利重人格』

(構成:藤井良樹)

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