利重 対談担当の編集者さんからもメール戴きましたけど、「枡野さんはこだわりがいろいろある」と。「嘘が嫌いだ」と。自分の正しさを通したいという癖をお持ちだと。
枡野 そういうことが伝わってるんですか? 編集者さんから?
利重 はい。「だけど最近は少しずつ変わろうとしているそうです」と。
枡野 そんなことまで!?
利重 はい。それを読んで、「ああ、なんか大変な対談になってしまうのかなぁ」なんて思ってたんですけど。で、確かに枡野さんの文章読んでると、そういうとこあるんですよね。短歌のほうは全くそういうとこがなくて、自由にぶわぁーーっといくんだけど、エッセイになるとすんごい、プチプチをひとつずつ潰すみたいに書いていく……
枡野 プチプチをひとつずつ潰していく……
利重 ただ、「嘘が嫌い」とか「嘘が許せない」とかいうけど、〝笑い〞とかって見方を変えると「嘘」じゃないですか。〝笑い〞ってギャップだから。「こうこうこうでしょ!?」なんて説明してたら、笑いは生まれないんですよ。そういうことでいうと、「嘘」を愛してるのに「嘘」を許せない、とかいってる気がしますね。
枡野 ほんというと、嘘つくのすごく上手いんですよ。
利重 あはははは!(笑)
枡野 ほんとなんですよ。僕がエイプリルフールについた嘘で、みんなが信じてしまったことあって。「舞城王太郎の正体は小沢健二」って嘘をついたら凄く流行ってしまって。それは僕がついた嘘なので、もしどこかで見かけたら、枡野がついた嘘だと思ってください。
利重 はい(笑)。
枡野 そういう、みんなが信じるような嘘を言うことは上手いんですけど、自分では禁じてるんです。でも(やっぱり僕は)混乱してるのかもしれません。
利重 なんだろう、正しいことがただ正しく伝わっても嫌なわけでしょ? 正しいことだけが伝わってたら、短歌なんか書かないわけでしょ?
枡野 う~~ん、そうですね。
利重 ね?
枡野 そのへんは、短歌も自然に始めたことなので……。
利重 言葉という世界でずーっと生きてる方なのに、一方で「嘘が嫌い」っていうのは面白いなぁと思うんですけど、だいたいわかってきたのは「混乱されてるということ」で(笑)。
枡野 ………。
利重 日本人って、言葉遊びが好きじゃないですか。たとえば「1ミリも感動しません!」とか。これ、破綻してるじゃないですか。ミリという単位と感動ということは関係ないわけだし。あとよく「120%」とか「200%」とかも言うけど、%って100が全てであって120とかはないわけじゃないですか。でもわかってて言うのが、みんな好きなんですよね。どっかでそのギャップであったり、言葉を違うふうに言ったりがとても好きな民族なんですよ。
それで短歌とか俳句もそうなんだけど、短いからこそ、そん中に押し込めようとするからこそ、想像力がバーーン!と広がるみたいな。そういう世界をずーーっとやってらっしゃって、尚且つ、そうじゃないことをエッセイで書くところが……〝枡野浩一は混乱していて面白い〞。
枡野 確かに僕、「(枡野は)論破してきそうだ」とよく言われるんですけど、本当にそういうの(論破するとかは)好きではないんですよ。だけど攻撃されるとつい反論しちゃうんですよ。みんな僕を攻撃しないでくれって思ってるんですよ。反論してしまうから。
利重 ネット連載のコメント欄にもすごく反論されてますよね?
枡野 最近は、元気なときは反論しないで我慢できるんですけど。
利重 元気のせいなのか!(笑)
枡野 ちょっと疲れてるときは反論しちゃうんですよ。条件反射的に。
利重 あ~なるほど。防衛本能みたいなことなのかな。
枡野 自分のことをとても弱いと思っていて、ちょっとでも攻撃されると3倍くらいにして返しちゃうんです。
利重 3倍返し! それは怖いな!(笑)
枡野 でも自分では、攻撃さえされなかったらこんなに書かなかったのに……と思ってることがあって。被害者づらなんですよ、本人は(笑)。
利重 う~~ん……。
枡野 そういうところが「枡野は怖い怖い」と町山智浩さんにもいわれてしまうんですけど。それをどうにかしたいんですけどねえ。
利重 「キジも鳴かずば撃たれまい」というか、「おまえが仕掛けてきたから悪いんだぜ」っていう……。
枡野 なんか、僕の人生相談になってきちゃってますけど(笑)。僕ね、自分で「子供に会いたい」って言うわりには、自分からは(会うために)動かない――っていうのはなぜなんだろうと、(我ながら)どんな理屈なんだろうと、ずっと考えたんですよ。
利重 はい。
枡野 それで、つい最近わかったことなんですけど、まず僕は結婚中に「自分はとても弱い人間」と思っていたにも関わらず、相手(妻)にとっては「怖い男」だったらしくて、それに僕は傷ついているんですね。自分の「男性」みたいなものに。僕は本当に弱々しい男だったし、圧倒的に経済力も向こう(妻)のほうがあったんだけど、でもそれでも向こうが僕のことを怖がっていたってことが最近(自分の中で)わかって。そういうことに傷ついてしまっているから、もう向こうが怖がっている以上、自分のほうから近づくのはやめようと思っていて……
利重 元奥さんに?
枡野 はい。それで子供から会いにくるのを待ってるんだけど、「それはでもストーカーですよ」って小谷野敦さんとかに言われてしまって。僕の待つ態度が。ストーカーの考え方そのものだと言われてしまったんですよ。それもストーカーの小説を書いてる小谷野さんに言われてしまったんですよ(笑)。
利重 う~~ん……。
枡野 あの、確かに、体質的にストーカーっぽいかもしれないけど。あと僕、演劇に出たことがあって、「五反田団」っていう劇団で、初めてやった役がストーカー役だったんで、たぶん顔もストーカー顔なんでしょう。左翼顔と比べてもストーカー顔。
それで本人的には自分が怖がられることに脅えていて、それで子供や元妻が向こうから(会いに)来るまでは、「こっちから行くまい」って思ってしまったところがあるんですね。(自分が自分から子供に会いに行こうとしない理由は)それだとわかったんですね。でも、それでさえも「怖い」と。「こんな本(最新作『愛のことはもう仕方ない』)書いて怖い」とか言われてしまうんなら、どうしようと。今、途方に暮れてるところです。
利重 や、でも、元奥さんに会う必要はないわけですよね?
枡野 はい。でも子供には会いに来てほしいなと思ってるんです。
利重 会いに来ますよ、そのうち! だって、もういい年でしょ?
枡野 16歳ですね。
利重 そりゃ、もう、そろそろじゃないですか!?
枡野 ほっといていいですよね? ほっときたいんですけど。
利重 だって、向こうがどう思ってるかわかんないわけだし、会いに来るときは会いたくて来てるわけだから。それが一番正しいことですよ。
枡野 なんかちょっとたまに、「会いに行けばいいのに。なんで会いに行かないんですか?」って言う人もいて。そう言われると、混乱しちゃうんですよね。
利重 だって会いにいけば……って。そりゃ顔を見たいだろうけど。向こうだって人生があるわけですから――。
【第5回の注釈】
■『道』
イタリア映画の巨匠フェデリコ・フェリーニ監督の代表作のひとつ。1956年度アカデミー最優秀外国映画賞受賞。粗野な旅芸人の男・ザンパノと、彼に買われて「助手」となった貧しき女性・ジェルソミーナの旅路を描く。ジェルソミーナ役はフォリーニの実際の妻であるジュリエッタ・マシーナが演じている。ラストシーンは映画史に残る名場面として有名。音楽は名匠ニーノ・ロータ。
■ウディ・アレン
アメリカの映画監督・俳優。1935年生まれ。アカデミー賞に史上最多の24回ノミネートされ、監督賞を1度、脚本賞を3度受賞している。俳優としては、神経質で自虐的でモテないインテリ男を演じることが多い。監督作品に『ウディ・アレンの誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくいSEXのすべてについて教えましょう』『アニー・ホール』『インテリア』『マンハッタン』『カメレオンマン』『カイロの紫のバラ』『ミッドナイト・イン・パリ』などがある。
■町山智浩
1962年生まれ。映画評論家、コラムニスト。映画『進撃の巨人』では共同脚本も担当した。米国カリフォルニア州バークレー在住。代表作に『映画の見方がわかる本』、『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』などがある。最新作は『映画と本の意外な関係』『最も危険な映画』『さらば白人国家アメリカ』。
■映画『ブルーバレンタイン』トークイベント動画(枡野さんが町山さんに叱られた動画のうち一本。本当はもう一本あるのだが封印されている)
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■利重剛さん
りじゅう・ごう。1962年生まれ。俳優・映画監督・エッセイスト。
1981年、自主製作映画『教訓I』が、ぴあフィルムフェスティバルに入選。
同年、『近頃なぜかチャールストン』のプロットを日本映画界の巨匠・岡本喜八監督に持ち込み、喜八プロ作品として映画化され、「独立非行少年」役で主演を果し、共同脚本・助監督をも務める。共演者は財津一郎・小沢栄太郎・田中邦衛・殿山泰司・岸田森・平田昭彦などのベテラン名優たちだった。さらに同年、テレビドラマ『父母の誤算』で新しいタイプの不良少年を演じ、鮮烈なテレビデビューを飾り、以後、数々のドラマ・映画に出演する。
1989年、『ZAZIE』で監督に進出し、1996年『BeRLiN』では日本映画監督協会新人賞を受賞。2001年『クロエ』はベルリン映画祭に出品もされた。他の監督作品に1994年『エレファント・ソング』、2013年『さよならドビュッシー』などがある。
エッセイ集に『街の声を聴きに』(日本文芸大賞受賞)、『利重人格』があり、最新作は『ブロッコリーが好きだ。』
(構成:藤井良樹)
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