
純国産メーカー・KOIDEの目黒道夫社長と木のおもちゃたち
子どもへの贈り物として、鉄板アイテムといえば〈木のおもちゃ〉でしょう。温かみのある手触り、シンプルで飽きのこないデザイン、そして環境に配慮された材料。カラフルでギミック充実のプラスチック製も楽しいけれど、比べてしまうと木製のほうが〈質がいい〉という印象は否めません。ついでに〈意識高い系の親が買う〉なんて先入観も。
木のおもちゃを子どもが自由に楽しめるような施設に行けば〈木育〉という説明が目につき、自然派傾向の子育て本を読めば「プラスチックのおもちゃはすぐ飽きて遊ばなくなる。でも木のおもちゃは子どもが集中していつまでも遊んでいる」なんて体験談が登場。インターネットでは「化学薬品を使っていないから、安全」と謳うショッピングサイトも……。物そのものは素敵なのに、そういった〈木のおもちゃを与える親が正しい〉というような雰囲気に、購買意欲が吹き飛ばされてしまう山田ノジルです。
そんなふうに、消費者の間で付加価値が高められている感のある木のおもちゃですが、作り手側は「してやったり」なんて思っているのでしょうか? 日頃からそんなことを考えていたところ、なんと当媒体を運営するサイゾーのショッピングサイトで、まさに木のおもちゃが売られているではないですか(余談だが、〈ムー〉的なグッズと一緒に・笑)。これはぜひとも一度、製造者にお話を聞きたい!
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今回お話をお伺いしたのは、純国産メーカーであるKOIDEの目黒道夫社長。KOIDEは下町の小規模なメーカーであるものの有名デパートやおもちゃ専門店などでこぞって取扱われており、その安全性と知育性はお墨付き。数ある商品の中でも、一番人気は大人が乗ってもびくともしないほど頑丈なつくりの〈汽車ポッポ〉だとか。前進させるとポーっと音が出る楽しさ、童話の世界から飛び出してきたようなレトロカワイイ佇まいは、カラフルな〈コンビカー〉とは違うベクトルの愛らしさです。これをはじめKOIDEの商品は全て、目黒道夫社長のオリジナル。早速、〈木〉ならではの魅力を語っていただこう……と思っていたところ、「木のよさがどうこう言われるけど、プラスチックの加工とかも知らないと、ちゃんとしたおもちゃって、できない」と話は別方向へ!?

汽車ポッポ
〈汽車ポッポ〉を裏返してみてみるとなるほど、内側に仕込まれているのはプラスチック製の「ふいご」。タイヤのリングは劣化しやすいゴムでなく、耐久性が高く床を傷つけにくいエラストマー製。組み立てた立体コースに車を走らせるおもちゃ(クルリンエレベーター)は、ハンドルを回すと中に仕込まれたベルトによって、車がてっぺんのスタート地点まで運ばれていきます。昔ながらのプルトーイたちは、羽がくるくる回転したり、首をフリフリしたりなど、独特な動きはちょっとした中毒性! 木のおもちゃを表現するときに使われがちな「手触りが優しい」「シンプルでオシャレ」なんて言葉が月並み過ぎて失礼に思えてくるほど、それぞれに奥深い魅力があるではないですか。
「私の本職は経理や税理。でも、もともとデザインで飯を食いたかったこともあって、ヨーロッパからアフリカまで世界中のおもちゃを見て回ったんです。そこから見よう見まねで作り始めたんですけど、どうせ作るならちゃんとしたものじゃないとね。1種作ったら最低30年は同じ型を作り続けられるように、と思っています」
ノスタルジーを感じさせつつも決して古臭くないデザインや、アナログなギミックならではの感触。手にとって見てみるとなおさら、ロングセラー商品として成り立つ作りであるのがよくわかります。木という素材の魅力を語る必要のない、おもちゃとしての完成度の高さ。とは言いつつ、素材は主に「ブナ」を使うのがKOIDE製品の特徴です。

社長の情熱がビンビン伝わってきます
「ブナの木は曲がって育つので木材として使い道が少ないのですが、割れたりささくれになったりしにくい耐久性がある。ほら、こうしてみてもわかるでしょう?」
そう話し、手元に置いてあった木と木を、大人の力でガンガン!と思いっきり打ち付けあう目黒さん。ひいぃ、木片が飛んできそうで怖い! というくらいの容赦なさである。でも子供ってそういうことしますよねぇ。
「ほんの少し、わずかにへこむだけでしょ? ブナの木って、これくらい丈夫なんですよ。ひとことに木といっても、パキッと割れやすい材質のものもたくさんあります。そのへんも配慮して作られたおもちゃでないと、ごまかしがきくのはいいとこ3年でしょう。それを理解して作っている人がどれくらいいるのか。安全性が確認できないものなら、僕としてはそれくらいを目安に捨てて欲しいと思っている。ネット社会になる前は、業者の間で適さない素材は使わないようにという暗黙のルールがあったものです。でも今は気軽に発信も販売もできるから、そのへんのお約束が崩れてきているように思えます。今のままだと、「木のおもちゃは危険!」なんて騒ぎになりかねませんよ」
「化学物質0!」なんて謳っていても、割れて怪我しちゃ困りますよね……。木のおもちゃの付加価値が話題になりやすい背景もあってか、目黒さんの元には林業関係者からの問い合わせも多いそう。
「廃材を利用して子どもたちに積み木を作ってあげたいという相談がよく来るんですよ。子どもが直接触らないおもちゃの収納箱とかならいいんですけど、おもちゃはやっぱり別もの。廃材はやっぱり廃材なんですよね。私から見れば難しいケースがほとんどですよ」
うわぁ、なんと我が家にもまさに〈林業の廃材を生かして福祉施設が作った、軽さがウリの白木の積み木〉なるプレゼントがあります! なるほど、ささくれに気をつけることに致しましょう。
KOIDEの製品はおもちゃとしての楽しさはもちろん、「30年は使えるように」という徹底した安全設計が何よりのこだわり。子どもが簡単に投げられないようにという心遣いも、ずっしりした重みのブナが採用される理由のひとつ。それゆえ「子どもが使ってた汽車を孫にも使わせたいから修理して」なんてお客もひっきりなしで、新しい商品が売れないと嘆く目黒さん(普通にいいお話ではないですかと、失礼ながら大笑い)。
昨今はリーズナブルな木のおもちゃもたくさんあり、特にネットショップだとそちらに流れる傾向があるものの、「釘を使ったりして手を抜けば安く作れるんだろうけど、そこまで迎合したくない」とのこと。値段だけ見れば確かに高価ですが、こうしておままごとセットのちゃわんひとつのために木をくりぬく〈刃型(はがた)〉を作り、そもそも木材は長時間(長いものでは数年)かけて乾燥させるというすべてが採算度外視レベルの話を知れば、納得する人も多そうです。
それにしても聞けば聞くほど、ふんわりした「木のおもちゃ」周りにあるイメージと、付加価値を意識せず我が道を突き詰めた結果、こうしたおもちゃができたという舞台裏のギャップに驚くばかり。人件費の問題もあり、現在日本における木のおもちゃメーカーはKOIDEをはじめとする数社のみのよう。ネットショップで子どものおもちゃを買う場合、消費者はどうしても写真やランキング、有名人やインフルエンサーのオススメコメントで判断してしまいがちです。でも、本当にチェックすべきは安全と耐久性、そして子供が飽きないデザイン性を兼ね備えているかどうかであることが、目黒社長のお話からよく伝わってきました。〈実はアブナイ木のおもちゃ!?〉 そんな煽り記事が量産されるきっかけを作ってしまわぬよう、今後木のおもちゃを選ぶ際には、そんなことを頭の中にしっかり入れておこうと思った次第です。

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