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日本は巨大な男子校!? なぜ“ヘテロ男性”だけが正常とされているのか

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ヘテロ男性のことから見直さないと何も始まらない!

清田 『男の絆』には、明治時代の初期は男子学生の間で「男色(=男同士の性的な関係)」を礼賛する風潮があったと書かれていました。

前川 そうなんですよ。男同士の絆は「お互い文武を励まし合い、双方の成長や国家への貢献が期待できる関係」というイメージで捉えられていたわけですが、最初はそこにセックスも含まれていた。

清田 日本が当時からホモフォビア(同性愛嫌悪)というわけではなかったんですね。

前川 しかし、明治時代の中~後期あたりから、男色は風紀的に問題があると、メディアや知識人からバッシングを受けるようになります。また同時期に、教育制度の改定に伴って「女学生」という存在が多く登場するようになると、男女交際こそが正統な恋愛であり、異性と恋愛して結婚して家庭を築くのが幸福だというイメージが人々の間に広まります。それに伴い、同性愛者は“異常者”と目されるようになりました。

清田 少しずつ社会の空気が変わっていき、いつの間にか“常識”として定着していった……。そうやってじわじわと女性を家庭に押し込め、同性愛者を社会から排除する方向に向かっていったというのは何かちょっと怖いですね。

前川 歴史的に作られてしまった常識は、歴史的に振り返ってみないと検証できないわけです。

清田 「当たり前」と思われていることを問い直すのは本当に難しい作業ですもんね。

前川 今はLGBTに関する議論が盛んだし、女性活躍の推進も声高に叫ばれている。もちろんそれは大事なことだし、理解が進み、制度も整備されるべきです。しかし、歴史を振り返ってみれば、女性も同性愛者も、男の絆を守るために社会から排除されてきた経緯がある。つまり、LGBTや女性について語るだけでは問題は解決しない。最も見つめ直さなきゃいけないのは男の絆、つまりホモソーシャルの問題なんですよ。ヘテロ男性をまず語る。実は“正常”とされてるヘテロ男性がおかしいんだってところから考えていく。なぜ男たちは女性を排除し、同性愛を排除してきたのか。そこから考えないと何も始まらない。

清田 ホントにその通りですね……。でも、一方でマジョリティの男性ってなかなか自分に疑問を持ちづらいというか、自分が社会から下駄を履かせてもらっているという意識がほとんどない。そういう男性たちに言葉を届けるのは本当に難しいなと感じています。

前川 大事なのは、今のようなホモソーシャルな社会のままだと男性自身も幸せにならないよってことだと思うんですよ。国税庁「民間給与実態統計調査」によれば、ここ15年で30代後半男性の平均年収は約80万円も減り、もはや自分の親世代のようには稼げない。しかし「男が稼がねば」というプレッシャーはキツイまま。「男の生きづらさ」がクローズアップされているのも、そういう背景があるからでしょう。しかし、性別役割分業を始めとする男性を苦しめている仕組み自体、実はホモソーシャルが生み出したものなわけです。

清田 まさに自縄自縛……。ヘテロ男性やホモソーシャルに疑いを持つことは、「男の生きづらさ」について考えることにもつながるわけですもんね。

前川 ジェンダーに限らず、自分が履かせてもらってきた下駄について考えるのは、とても大切なことです。僕自身、こうして研究を続けられたり、本を出版できたりしたのは、自分が男性だったからだと感じることも多くあります。それらを「仕方ない」で済まさず、自分が履かせてもらっている下駄の存在を「なくすべき差別」だと捉え直す作業を、これからも続けていきたいと思っています。

清田 我々男性はこの社会の既得権益層である一方、その社会構造によって苦しめられている部分もある。まずはそのことを認識し、自分にとっての「下駄」と「縄」を、個人個人が具体的に問い直していくしかないと感じました。どうもありがとうございました!

前川先生、ありがとうございました!

前川先生、ありがとうございました!

  • ■今回の先生■

    前川直哉(まえかわ・なおや)
    1977年兵庫県生まれ。東京大学教育学部卒業後、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程単位取得退学。灘高等学校教諭を経て、現在は東京大学大学院経済学研究科の特任研究員、および一般社団法人「ふくしま学びのネットワーク」理事・事務局長を務める。共著に『「育つ・学ぶ」の社会史――「自叙伝」から』(藤原書店)、著書に『男の絆─明治の学生からボーイズ・ラブまで』(筑摩書房)、『〈男性同性愛者〉の社会史――アイデンティティの受容/クローゼットへの解放』(作品社)がある。http://www.geocities.jp/maekawa_00/

  • 『男の絆─明治の学生からボーイズ・ラブまで』(筑摩書房)

    『男の絆─明治の学生からボーイズ・ラブまで』(筑摩書房)

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