顕著なスキル向上から浮かび上がる多彩なラッパーたちのあり方
「COMA-CHIさんや椿さん、Mystieさんにそりゃ憧れってもんはあるけど、うちはもっと上に行きたいから今日は憧れを捨てに来た」
女性だけのMCバトルの大会「シンデレラMCバトル」第2回の決勝戦、まだラップを始めて3年に満たないMCまゆちゃむ。は、最後にこう叫んだ。
憧れを捨てるとは何だろうか。それは、憧れの先に行こうとすること。そして、結果として自らが誰かの憧れになることではないだろうか。改めて振り返ると、第2回シンデレラMCバトルは、まゆちゃむ。のこの言葉の意味を可視化するような場であり、第1回からの進化を強く感じる現場だった。
初開催となった第1回大会開催は1月29日。約半年後に開催された第2回での参加者は25名。オーディションから20名、シード枠は5名。中には第1回での雪辱を晴らすために参加した者も。一方、第2回の予選敗退者の中には、第1回の本戦通過者も数多くいた。これは単純に参加者のレベルがアップした結果ととらえてよいだろう。
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前回大会では、まずマイクのコントロールといった基礎が抜け落ちていたり、大舞台に緊張して呑まれてしまったMCも多かった。第2回では、こうしたバトルの内容以前のことで試合を落とすMCはぐっと減り、見応えのある試合が増えた。
こうしたスキルの向上をわかりやすく見て取ることが出来たのが、ベスト8の試合だ。バトルビートの選定を行うDJ SIONが、突然トラップ調のビートを採用し始めたのだ。
トラップとはBPM遅めのゆっくりしたビートに刺激的な電子音が入るビートを指す。リズムの上に言葉を乗せていくようにラップする通常のビートと違い、トラップでは緩めの音の間に言葉を詰めていくという技術が必要になる。多彩なビートでラップするスキルのないMCには、トラップに乗ってのラップは難しい。
実際にぱっつんvsCHARLES戦では「おまえは全然乗れてない このトラップに」というバースも飛び出し、CHARLESが見事勝利を収めた。
また、印象的だったのは、前回大会の1回戦敗退者のめざましい進化だ。今回ベスト4のワッショイサンバ、準優勝のまゆちゃむ。の両名は、ともに第1回ではその個性を活かせないままに初戦敗退している。
しかし、今大会ではワッショイサンバはそのコミカルかつシニカルなワードセンスを、まゆちゃむ。は高速ラップでの機転の利いた返しを見せつけ上位に進出した。
勝ち上がった若手の最大の特徴は、スキルの向上を「自分らしい戦い方」に結びつけていたことだろう。ギターの速弾きがそれだけでは人の心を打たないように、ラップスキルだけが高くとも、ただ器用さを見せつけるだけのゲームになってしまう。
ありがちな「ヒップホップっぽい」言葉やしぐさに頼ることなく、常に自分自身を第3者に向かってアウトプットすることに終始していた両名には、これからもバトルにとどまらない活躍を期待したいところだ。
こうしたスキルの具体的なステップアップが可視化されるのは、コンペティションであるMCバトルの長所だろう。
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