近年、アメリカやイギリスでは「男子の落ちこぼれ問題」が議論の的となりつつあります。「男子の落ちこぼれ問題」とは、主要産業が第二次産業から第三次産業にシフトし、大卒の人材が必要とされるになったにもかかわらず、女性に比べて男性の高等教育就学率が向上しなかったために「男子の落ちこぼれ」が生まれてしまった、という問題です。一方、理数系を中心に女子の成績が男子ほどではない点も問題視されており、どうすれば女子の学力が向上するのか、男子と女子の学習行動の違いから女子教育の拡充に取り組むような分析が行われています。
今回は数ある学習行動の中から「競争」に関するものをご紹介しようと思います。教育段階が上昇するほど教育の中に「競争」の要素が出てきます。競争の要素が出てくるということは、家庭環境など他の条件が一定であれば、競争心のある人ほどより高い教育水準にたどり着く可能性が高いということになります。
分かりやすく学校歴で例えましょう。同じ学力で、競争心に大きな違いがある二人がいたとすると、競争心の無い方の学生は受験の際に、入学後の競争を避けるために現在の成績でA判定が出る安全校への出願をより好むでしょうし、競争心の高い方の学生はもっとレベルの高い所に挑戦するでしょう。その結果、二人の教育水準には差が生まれることになります。
仮に現時点の学力が同じであったとしても、競争心の有無はその後に大きな違いを生み出す可能性を持つわけです。しかしここには問題があります。もし学力は高いのに、何らかの形で競争心がそがれてしまい(あるいは無いために)、本来その人が受けられるよりも低い教育水準にとどまってしまった場合、その人にとっても、そして社会にとっても損となる可能性がある点です。そして、男子と女子には競争心に違いがあることがわかりつつあります。今回は男子と女子の競争心をテーマに話を進めて行こうと思います。
本編に入る前に、今回の記事を読むうえで留意していただきたい2点について述べます。まず一点目は、今回ご紹介する研究は海外で行われたものなので、日本の文脈には必ずしも当てはまらないかもしれない点です(これを「外部妥当性」といいます)。二点目は、教育政策研究は、効果的な教育政策を打ち出すことを目的に子供の傾向や特徴を把握するための分析を実施しますが、あくまでもそれは全体的な傾向や特徴でしかありません。そのため目の前の子供に必ずしもその傾向や特徴が当てはまるわけではない点です(例えば、相対年齢効果という3月生まれの子供と4月生まれの子供の間に学力や運動能力で差が見られる傾向がありますが、3月生まれだからと言って低学力だとは限らないし、適切な対策を取れば問題を解消することも可能だということです)。