次の大統領こそ、女性?
日本の参議院に相当するアメリカの上院は議員総数100名のうち21人(21%)が女性だ。衆議院にあたる下院は議員総数435人のうち84人(19%)が女性となっている(ちなみに日本の女性議員比率は、参議院は約21%、衆議院は約10%。)。
アメリカでは上院議員を経て大統領選に立候補するケースが多い。バラク・オバマ元大統領も、ヒラリー・クリントン元候補もそうだった。現在の女性上院議員の中にも昨年の大統領選に出るやもしれないと言われ、結果的にはクリントン候補に譲るために出馬しなかったエリザベス・ウォーレン議員(現在はトランプ批判の急先鋒)、次期大統領選出馬の可能性をささやかれているカマラ・ハリス議員がいる。また、下院には米国史上初の女性下院議長となったナンシー・ペロシ議員もおり、トランプ政権の「オバマケア廃止案」阻止のために戦っている。
ちなみにハワイ州選出のメイジー・ヒロノ(日本名:広野慶子)議員は日本生まれで、米国史上初のアジア系女性上院議員となった人物だ。日系アメリカ人の母親が日本で暮らしていた1947年に福島県で誕生。8歳でハワイに移住し、1955年にハワイが米国50番目の州となった際、アメリカ合衆国市民となっている。今年5月に腎臓ガンの手術を受けたがすでに復帰しており、来年の再選挙への出馬も表明している。
2020年の次期大統領選への立候補を表明している者はまだいないが、水面下での選挙戦はすでに始まっている。トランプが当選した直後に元ファーストレディのミシェル・オバマへの熱烈なコールがあったことは記憶に新しい。ヒラリー・クリントンの再出馬は年齢的にないと思われるが、娘のチェルシー・クリントンの出馬を望む声は多い。もっとも、本人は子育ての最中でもあり、今のところは考えていないとコメントしている。いずれにせよ、次回も民主党、共和党の双方から女性候補者が出るのではないかと思われる。
社会進出とリスク
このように日本に比べると女性の社会進出が進んでいるように見えるアメリカだが、上記に何度も「女性初」という言葉が出たように、実はまだ始まったばかりとも言える。しかも表面と実情には乖離もある。
保守系のニュース専門ケーブル局フォックスニュースでは、局の立ち上げから20年間CEOを務めたメディア界の大物、ロジャー・エイルズが昨年の夏に辞任した。10名以上の女性ジャーナリストからセクシャルハラスメントによって糾弾、または訴訟を起こされた結果だった。女性ジャーナリストたちは、ロジャー・エイルズから「ホテルに誘われ」、あるいは「自分と寝るのであれば昇給」などと言われ、断ると「解雇された」「パワーハラスメントが始まった」と証言している。
また、フォックスニュースに限らず、どの局も女性キャスターには実力と共に容姿が求められることは番組を観れば明らかだ。
政界も問題を抱えている。昨年の大統領選では当初、ヒラリー・クリントンが女性初の米国大統領になると予想されたが、果たせなかった。そこには様々な要因があり、敗因は今も分析され続けているが、政界と、女性も含む有権者のミソジニー(女性嫌悪)も理由のひとつであったという声が少なくない。
NYPDも同様だ。現在は女性警官が6,000人いるが、上層部の圧倒的多数は今も男性であり、女性警官は昇進に苦労している。
これらはいずれも社会進出に伴う「女性であるがゆえ」のリスクと差別だ。
先のファミリア警官は3人の子供を持つ母親でもあった。12歳の男女の双子と21歳の娘が遺児として残された。母親が殉職したと聞くと切なく思うのが人情だが、それは父親が殉職した場合も同じである。NYPDにも女性への昇進差別があるとはいえ、ファミリア警官のケースは性別に関係なく、生命を賭すこともある職業ゆえのリスクだった。米軍兵士ともなれば、そのリスクはさらに高まる。
女性の社会進出は多くの場合、なんらかの女性差別に阻まれる。加えて、職業によってはこれまでは無かった負傷や死亡のリスクが伴う。それでも女性たちは「やりたいこと」「やらなければならないこと」を職業に選ぶ時代となった。そして少女たちは、そんな女性たち、母親たちの背中を見て育つ時代となったのだ。
(堂本かおる)
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