失恋に特効薬なし。どうにもならない苦しい時間を自分なりに生き延びて
――本の中で「なぜ男子は女子を人間扱いできないのか」という問いがなされていましたよね。私が大学に通っていたとき、サークルなどの仲間内で、交際相手をコンテンツとして消費するというような話を聞いたり体験することもありました。あれはどうして起こってしまうのでしょうか。
清田 まさに最近、桃山商事にそういう悩みを持った相談者さんが来たんだけど、背景にはホモソーシャルという問題があるように思う。それは同棲中の彼氏が、男友達のグループLINEに彼女の下着を撮影してアップしたり、生理のときにセックスして血がついたシーツ画像とか送って「さすがにモノが大きいですね(笑)」みたいな話で盛り上がったりしているのを見つけてしまった……という話だったんだけど、彼女の認識で言うと、家で一緒にいるときの彼はすごく優しくていい人なんだって。なのに、偶然見てしまったグループLINEではまったく別の顔を見せている。「これはどういうことなんですか?」っていう相談だったの。
彼女としては、「本当は私のことが嫌いで、だから裏であんな酷いLINEを送っているのでは……?」って認識だったんだけど、話しているうちに、もしかしたらそうじゃないのかも、と。男同士の会話では、下ネタで盛り上がるとか、チキンレース的な感じでどこまで晒せるか、どこまで醜悪なやり取りで盛り上がれるかっていう文法が求められていて、彼はそれに合わせた振る舞いをしていただけという可能性もある。だからと言って許す必要はないし、人権侵害も甚だしい話なんだけど……これも「女子を人間扱いできない」って話の一例だと思います。
トミヤマ 女子の間でも、「元カレをコンテンツとして消費する」ということはありますよね。特にひどい別れ方とかするとそういう扱いになる。
――交際相手と上手に別れるのって、恋愛の中で一番難しいかもしれません。みんな付き合い方は一生懸命勉強するけれど、本当は別れ方も学ばないといけないんですよね。
トミヤマ これはうちの母が言っていたことが真理だなと思うんですよ。「別れたかったらそいつの前でいきなりパンツ下ろしてウンコすればいいんだよ」って。言われた当時は単なる冗談だと思ってたけど、ある程度相手に嫌われてもいいから、別れるときは一気に切断しろって話だったんですよね。相手を傷つけたり、逆上させたりするかもしれないと思って色々と言葉を尽くせば尽くすほど、別れ話はこじれる気がします。
清田 「あなたが嫌いになったわけじゃなくて……」系の言葉はなかなか厄介だと思う。振られる側は、とにかく別れを受け入れたくないわけだから、それにすがってしまう。
失恋して我々の元にやって来る相談者さんには、「こうすれば大丈夫」「絶対復縁できるよ」みたいな、希望を持たせる言葉や即効性のあるメソッドを欲しがっている人も少なくない。早く楽になりたい、誰かに何とかしてもらいたっていう気持ちが強いからだと思う。でも、失恋に特効薬なんてないし、自分自身で「別れたんだ」っていう事実をとにかく受容して、暗い辛い時期をなんとか生き延びて浮上するしかない。「こうすれば楽になれますよ」って言葉を提供してくれる人にすがる気持ちはわかるけど、それは一種の洗脳にも似ている。苦しいかもしれないけど、相手はもうそこにいないから、“小さな死の体験”だと思って喪に服すしかない……。そのどうにもならない苦しい時間を、大学時代に一度や二度経験しておくとすごくいいと思う。
トミヤマ 学生時代の失恋って、まず自分がヒマだからどっぷり浸れるし、周りもヒマだからとことん付き合ってもらえていいですよね(笑)。
清田 そうそう。辛いときは友達に何回でも同じ話をしちゃってもいいと思う。そうしてるうちにだんだん自分が失恋の状態に飽きてくるから。そうやって、どうにもならなくなっちゃったときの自分なりの逃がし方を身につけていくのもいいよね。
トミヤマ そこはあんまりうまくすり抜けちゃわない方がいいのかもしれない。ちゃんと告白したり失恋したりして、振られた人と構内ですれ違って気まずくなったりするのもいい経験じゃないですか。卒業したら全部笑い話ですし! それに人生、何もかもスッキリとしていて、お天道様の下を堂々と歩けるなんてことはないんですよ。元カレが住んでいるから近寄りたくない街とかあるじゃないですか。でも、そういうってあっていいんですよ。その傷が比較的浅くて済むのが大学時代で、今振り返ると、本当に転び放題だったなと思います。
――本のあとがきには「転ばぬ先の杖」という言葉が出てきますが、これは「転ばないための本」ではなく、「安心して転ぶための本」だな、と思いました。
清田 世の中では「転ばないための方法」とか「転んでもすぐ立ち直る方法」とかが価値がある情報だと思われてるけど、「いくらでも転んでも大丈夫、立ち上がり方は自分でいくらでも身につけられるよ」っていうのが、この本で僕たちが言いたかったことですね。
トミヤマ 転んだ状態でゴロゴロしながら自分を観察する時間が持てる。そういう時間があることが、大学生の最大の武器であり財産ですよね。

大学生って暇な時間はめっちゃある!/トミヤマユキコさん