世界のトラフィッキング事情
報告書では国別のリポートとは別に、あちこちのページにヒューマン・トラフィッキングの犠牲者の写真が掲載され、その物語が記されている。トラフィッキングが行われている国と犠牲者の出身国によりさまざまに異なるトラフィッキングがあることが分かる。
クウェート:
ニコールは貧しい実家に送金するため、自国を出てクウェートでメイドとなった。 9カ月間働き続け、その間、身体的暴力、言葉の暴力を受けたが、賃金を受け取ることはなかった。ニコールの就労ビザが満了したとき、雇用主はニコールを警察に突き出し、虚偽の犯罪で告発した。 ニコールの主張は聞き入れられず、6カ月間投獄された。その後、ニコールは母国へ強制送還されたが、未払いの賃金を手にすることはなかった。
アメリカ:
アルコールと麻薬の中毒者だった父親がエイミーに暴力を振るい、性的虐待を始めたのはエイミーが12歳の時だった。17歳の時、父親から逃れるために友人と暮らし始めると、友人からモデル・エージェンシーを名乗る男を紹介された。男はエイミーをホテルに何週間も閉じ込め、満足な食事も与えず、売春をさせた。売り上げは全て取り上げられ、逃げたら殺すと脅されたがエイミーは脱走。今は看護助手になり、人々を助けたいと考えている。
ナイジェリア:
アブダルが14歳の時、ボコ・ハラームが村を襲撃し、アブダルは誘拐された。ボコ・ハラームはアブダルに機関銃、対空砲、ロケット推進擲弾などの操作法を訓練。アブダルは戦闘参加を強制され、市民18人を殺すことに。3年後、スパイとして政府軍の情報を蒐集する任務の最中に脱走して両親を探していたところをボコ・ハラームのメンバーとして逮捕された。
ニュージーランド:
インド人のラジブは学生ビザを取得してニュージーランドへ渡った。学校が始まる前に少しでも学費の足しにとキーウィ果樹園で働くことに。学生ビザでは長時間就労ができないため、雇用主は偽の身分証明書を提示するよう強制。これにより厳しい労働条件の元、週80時間働いたが、給料は支払われなかった。不平を言うと違法行為で訴えられ、国外追放もあり得たため、耐えるほかなかった。数カ月後、ラジブは果樹園を脱走し、ニュージーランド当局に助けを求めた。
イギリス:
2009年に仕事を失ったティムが建設業を営む夫婦に雇われた際、極貧の一歩手前の状態であった。住む場所と3食が提供されるとのことだったが、労働者たちは汚いトレイラーに詰め込まれていた。夫婦はティムの髪を剃って衣服を剥ぎ、携帯電話と身分証明書を取り上げた。ティムは監禁され、暴力と言葉によって虐待され、ドライブウェイのセメント舗装の仕事を強要された。やがて夫婦は逮捕され、ティムは救出された。
アフガニスタン:
パシャは10歳の時、家族によって学校を辞めさせられ、レンガ窯工場で働くこととなった。父親が病気をした時にレンガ窯工場の経営者から借金をしており、利子が膨らんで返済不能となっていた。以後3年間、パシャは父親や兄弟と共に過酷な12時間労働をおこなった。父親が健在なうちに返済できない場合、借金はパシャと兄弟に引き継がれ、のちにその子供たちに引き継がれる可能性もある。
日本の課題
報告書にはローマ字で「enjo kosai」「 “JK business” (JK stands for joshi-kosei, or high school girl)」といった記述がある。日本独自の現象として注目、憂慮されている証拠だ。日本の場合、10代の少女が自らの意思で性産業に従事することをトラフィッキングとみなさない傾向がある。しかし10代は未成年、つまり子供であり、子供は社会と大人によって守られなければならないとするのがアメリカの認識なのである。
先に挙げたフィリピンのケースのように、日本人男性が外国人女性との間に子供をもうけたケースにつけ込む手口もある。ここでは外国人女性の「日本移住」と「国籍」が利用されている。
報告書が大きな分量を割いているのが「技能実習生制度」問題だ。日本政府の公式プログラムがヒューマン・トラフィッキングであると認識されているのである。この問題を日本政府はどう考えているのであろうか。
(堂本かおる)
■記事のご意見・ご感想はこちらまでお寄せください。