俯瞰に逃げない、「わたくしごと」の男性学を
――しかし、男性が圧倒的に多数の場所で、女性やマイノリティ側から声をあげるのは、エネルギーがいりますよね。大きい話ですが、国会議員の女性比率は一割を切っているし、新聞、テレビ、ラジオなど報道メディアも男性メインですよね。こうした状況で男女の不平等の問題がなかなか取り上げられづらいことにモヤモヤします。
平山 男性が優位の社会では、何かを訴えるときの「合理性」や「論理性」の判断も男性がすることになる。「合理的」で「論理的」じゃないから訴えが通らないのではなく、男性にとって受け入れにくいものが「ちゃんとしていない」という評価を受けてしまう、という男性バイアスがかかります。
――声をあげられる場面での男女比が不均衡な状況だと、マイノリティ側は異議申し立てしづらい。やはり力のある男性側から働きかけてほしいですね(もちろん少数派の男性には酷なのでは、とも思います)。
平山 女性に対して「言ってることがよくわからない」「論理的じゃない」「感情的すぎる」みたいに言う男性は、単に聞きたくないだけだし、そう言えてしまうこと自体が権力なんだ、という自覚をもつところから始めないとね。
――そう聞けて心強く思えました。平山さんの『介護する息子たち』は、そうしたいろんな根の深さを網羅して丁寧に解きほぐしてくれているからこそ、読むことへのハードルが高いのかもしれません。例えば本書での息子介護の特徴として、自分でなんでもやろうとしすぎるということがありますよね。でも、もっとケアを開いていけばいいのに、家族や近隣の関係に開いていかないという指摘とも通じると思いました。
平山 息子介護の問題の一つは、虐待率の高さです。私が息子介護の研究を始めたきっかけの一つは「自分も息子だから、虐待加害者になる芽を持っているのかもしれない」という恐れでした。でも、講演などの場所で出会う男性は大抵、他人事で、「そういう変な息子も多くて、そういう人が介護をやると困るよね」みたいに言うんですね。虐待する息子介護者と自分がもしかしたら地続きなんじゃないか、という思考がすごく希薄なんです。
――先ほどのセクハラの話もそうですし、先日話題になったジャーナリストの詩織さんが準強姦被害の告発をした際にも、確かに他人事と考える人は多い印象でした。
平山 女の人がノーと言えない立場上の力関係を考慮せず、相手が同意したと思い込むっていうのは、カップルの間でもふつうに起きていて、性犯罪の加害者は決して自分と遠い存在じゃない。男性による性犯罪が起きたとき、「レイプする男は許せねえ!」とか言って、加害者を自分と切り離して怒るのではなく、自分が普段している行動と照らし合わせて考えてみてほしいですね。男性が当事者性をもって性犯罪の問題を見ない限り、この問題は解決できません。詩織さんが問題にしようとしていた性犯罪に対する司法のあり方についても、「法制の問題だから」と遠い話にするんじゃなくて、被害に遭った女性がここまでしなくちゃいけない社会を変えようとしてこなかったのは自分たちなんだ、と当事者性をもって考えていかないと。
――現在の司法制度では女性が訴えづらい、訴えても退けられやすい、という構造的な問題ですね。個人として身近な問題として向き合う姿勢と、構造的な問題を分けて考えないといけないけれど、メディアの事件報道は、センセーショナルに取り上げがちで、他人事としている感じもあります。
平山 切り離さないで欲しいですよね。性犯罪の報道にしても、特殊な男性が起こした事件として「あんな酷い話が!」と怒る前に、同じ男性である自分と重なるところは本当にないか? と考えて欲しい。他人事ではなく「わたくしごと」として欲しいですね。
――客観的であるべきだっていう考えが良しとされている風潮にも通じそうですね。「感情的にならずに」と諭す物言いがあっても、それでも感情的にいやだ! と思うことはあるし、してもいいはずですよね。
平山 そうそう。フェミニズムがやってきたことって、他の女性が抱える問題を「他人の問題」として切り離して見ず、「これは、この社会で女性として生きる者の問題だ」「だから私自身の問題なんだ」と、「わたくしのこと」として引き受けるところから始まったんですよね。そして、主観的と言われることを恐れず、当事者性ばりばりでやってきた。でも、男性が男性問題を考えるときって、「わたしとは違う男性が起こしてしまった問題を、彼のようになるはずのない男性のわたしが解決してあげる」という姿勢が目立ちます。そういう他人事の姿勢で、客観的に、俯瞰的に見ることができることが優れているという価値観から、男性は全然抜け出そうとしていないです。あれもこれも「わたくしのこと」として考えるのって、めちゃめちゃ痛いことだけど、男性問題への見方を変えるところから始めないと、男の人が変わるきっかけってないと思います。
(取材・構成/鈴木みのり)