「卵子凍結」は、将来の出産のための“保険”となりうるか?

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 アメリカでは、FacebookやApple、Yahooなど複数の企業が、卵子凍結をしたい女性社員に費用を援助するという福利厚生策を導入しており、日本でも同様の取り組みを行う企業が出始めている。こうした動きについて、「女性の選択肢を増やす画期的な支援だ」と歓迎する声がある一方で、「本当に女性のためといえるのだろうか」と疑問視する声もある。

 Facebookの最高執行責任者であるシェリル・サンドバーグは、卵子凍結に関して「女性は子どもを持つことを考えたその瞬間から、その子どものためにゆとりを確保することを考え始めます」「その瞬間から、彼女たちは積極的に手を挙げて出世を望んだり、新しいプロジェクトに取りかかったり、『わたしにやらせてください』と言わなくなるのです」と語っている。

 この見解についての賛否はさておき、20代、30代で卵子を凍結し、仕事に専念したところで、それではいつ卵子を解凍し、妊娠したらよいのだろうか。40代、50代で「新しいプロジェクト」に取りかかることもあるだろうし、役職に就いてますます責任を負うということもある。いつまで経っても「その時」は訪れないかもしれない。

 日本では、2015年に千葉県浦安市が、2034歳までの市民を対象に卵子凍結保存にかかる費用を助成することを発表し、すでに実施されている。発表時の記者会見で 「不妊治療で苦しんでいる人は多いが、国の制度は不十分。浦安市が一石を投じることが、国の制度の充実に向けた第一歩になれば」と語った市長は、、その1カ月前、同市の成人式で「20歳を迎えた皆さんがた、いままで結婚適齢期という言葉はありましたけれども、この少子化を前にして日本産科婦人科学会は出産適齢期という言葉をできるだけ皆さんがたに伝えようと努力しはじめました。出産適齢期、18から26歳までを指すそうです。いまの大人たちががんばる時代ではなく、若い皆さんたちがこれからの日本、地域社会を担っていきます」と発言し、注目を浴びた人物。

 おそらく市長は、卵子凍結支援策のことで頭がいっぱいだったために、成人式で「出産適齢期」について自説を披露してしまったのだろう。平均初産年齢が30歳を超えている今日、この発言は当然、物議を醸した。市長同様、抗議が殺到したと思われる日本産科婦人科学会は、すぐに「『出産適齢期は18歳から26歳を指す』と定義した事実はございません」というコメントを発表した。

 市長の発言からも明らかなように、この施策は若い女性たちを対象としているが、20代から30代前半という年齢で、病気治療など身体的な理由もなく、卵子を凍結したいと考える女性たちがどれほどいるだろうか。卵子が老化しはじめると言われる年齢にさしかかって初めて、凍結保存に関心を持つのではないだろうか。すでに多くの女性が卵子凍結を行っているアメリカや、前述の「老化を止めたい女性たち 卵子凍結の衝撃」(『クローズアップ現代+』)で、実際に卵子を凍結したと語った女性たちも、現時点でパートナーがいない30代後半以上が中心である。

 今後もこの年代を中心に、「保険」として卵子を凍結する女性が増えていくだろう。扱う医療機関も増えていくにちがいない。しかし、凍結卵子を使っての妊娠、出産の成功率は、現時点では決して高いとは言えない。とくに未受精卵の場合、成功率は低い。したがって、卵子凍結は一時の焦燥感から逃れるためには有効だが、将来の出産のための「保険」にはなりえない。

 もし卵子凍結が頭をよぎったら、一度冷静に、「本当に私は子どもが欲しいのだろうか?」と自問したほうがいい。「卵子の老化」キャンペーンの影響で焦りを感じているだけかもしれない。人は多かれ少なかれそうした社会的影響を受けながら生きているので、どこまでが純粋な意志で、どこからが社会的影響かなどと線を引くことは困難である。しかし殊、妊娠、出産に関しては、それが女性の人生に与える影響が大きく、望んだところで必ず叶うとは限らない性質のものであることから、意識的に線を引いた方がよい。これだけ出産に対するプレッシャーの強い社会で自分を見失わずにいるためには、そうしたスキルも必要となってくる。

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